[O144-3] 未診断の進行直腸癌による腸閉塞・多臓器不全症例で経験した治療方針設定についての考察
【緒言】治療方針の決定に際して本人の意思確認が重要であることに疑う余地はないが、急病や重症病態において本人の意思を確認できないことは少なくない。今回、我々は未診断の進行直腸癌による腸閉塞・多臓器不全症例において、家族の意思で治療介入を開始し、状態回復後に本人の意思決定を以って治療を撤退した一例を経験したので、発表する。【症例】吐下血を主訴に救急搬送された病院嫌いで通院歴・検診歴のない60歳代男性。来院時、呼吸不全・循環不全・意識障害を認め、初期診療の結果、進行直腸癌による腸閉塞、循環血液量減少性ショック、敗血症性ショック、急性腎前性腎障害と診断された。当初は病院嫌いであり本病態となるまで受診をしなかった本人の意図や普段から「自分はいつ死んでもいい」とコメントしていたことを汲んで治療撤退を考慮されたが、書面・家族からの推察を含めて本人の意思が明確ではないこと、ご家族が集中治療を希望されたことを以って、気管挿管・人工呼吸管理を開始、集中治療室入室とした。イレウス管挿入や急性血液浄化療法を含む集中治療を行い、状態改善したことから第9病日に抜管とした。抜管後、家族同席の下、本人に原疾患の状態や今後選択できる治療方針について説明したところ、集中治療の継続を望まないことを明確に意思表示され、この結果を以って家族と協議し、輸血・臓器代替療法を行わない方針として、苦痛緩和に重きをおく方針とした。その後、徐々に全身状態悪化し、第11病日未明に死亡確認とした。【考察】治療方針決定に際しては、正常な判断能力を有していること、正しい情報提供がなされていることなどが必要条件になると思われるが、重症病態を呈する患者では、その担保がしばしば困難である。本症例では事前に致死的状態にあると認識していなかった比較的若年の患者が呈していた恒常的な治療拒否の姿勢を有意と捉えるべきかの判断に苦渋した。【結語】未診断の進行直腸癌による腸閉塞・多臓器不全症例において、家族の意思で治療介入を開始し、状態回復後に本人の意思決定を以って治療を撤退した一例を経験した。重症患者の意思確認において、十分な情報提供がなされていない状態での希望を文面通りに受け止めることは慎重になるべきであると考える。