第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

感染・敗血症 症例

[O147] 一般演題・口演147
感染・敗血症 症例08

2019年3月3日(日) 10:05 〜 10:45 第13会場 (国立京都国際会館1F Room F)

座長:丹保 亜希仁(旭川医科大学救急医学講座)

[O147-2] 外傷入院中に判明したクロイツフェルト・ヤコブ病の一例

有馬 史人, 久木原 由里子, 亀田 慎也, 平松 玄太郎, 大井 秀則, 中田 一之 (埼玉医科大学総合医療センター 高度救命センター)

【背景】
外傷を契機にICUに入室した患者が、クロイツフェルト・ヤコブ病を発病した。このような経過はまれであり診断に難渋したので、ここにその経過を提示する。【臨床経過】
70代男性。既往に認知症、CKD、白内障、緑内障があり、入院する1か月前から少しずつ物忘れが目立つようになっていた。また、白内障の悪化もあり行動範囲も急激に狭くなっていた。
某日、室内で転倒し頸部痛が出現したため近医を受診し、ハングマン骨折と診断された。当院救命センターICUへ入院したが、保存的加療の方針となり後方病床へ転出した。入院後、せん妄・認知症が悪化し意思疎通が困難となった。入院後2週間経つと、会話も困難となり、離床や向精神病薬にて対応した。入院後3週間目に意識障害精査のため長時間ビデオ脳波測定を行ったところ、右側頭葉から後頭部にかけて周期的な三相波が見られ、棘波などのけいれんを疑わせる所見はなかった。ビデオ上でも明らかなけいれん動作はなかった。何かしらの代謝性脳症を疑ったが、原因となる疾患は臨床所見から推定できなかった。4週目になると、左水平眼振が出現し、四肢の筋固縮や不随意運動が見られるようになったため、再度脳波測定を行った。三相波は全脳に広がっており、ビデオ上でも三相波の発現に一致して足の不随意運動が出現していた。けいれんと考え抗痙攣薬の投与を開始した。5週目には誤嚥性肺炎のため呼吸状態が悪化し、挿管してICUに再入室した。MRIを撮影したところ拡散強調像で両側の被殻と淡蒼球に対称性の高信号があり、クロイツフェルト・ヤコブ病が疑われた。腰椎穿刺を行い、検体を専門機関へ提出した。呼吸器は離脱し抜管したが、ほどなく、呼吸状態が保てなくなり入院後7週目に死亡した。病理解剖は行われなかった。後日、髄液中T-Tau蛋白、14-3-3蛋白とも陽性と判定され、同疾患を強く示唆するものだった。なお、家族歴はなく孤発性が疑われた。
【結論】
外傷を契機に入院したが、経過中進行した認知症様の意識障害進行はクロイツフェルト・ヤコブ病によるものだった。振り返ると、進行する認知機能低下、視覚異常、筋固縮、不随意運動、周期性同期性放電があり、典型的臨床経過をたどっているにも関わらず、診断までには多くの時間がかかった。外傷であろうとなかろうと、私たちは、進行する認知機能の低下を認め脳波で三相波を確認したら、クロイツフェルト・ヤコブ病を疑わなくてはならない。