[O155-1] 腹部大動脈手術における内臓脂肪の酸素化能への影響
【背景】肥満低換気症候群などBMIの高い手術患者の術後酸素化能が低下しやすいことは知られているが,その原因として内臓脂肪と皮下脂肪の影響を分けて検討した報告は非常に少ない。【目的】我々は肥満でも特に内臓脂肪に着目し,皮下脂肪と比較して,内臓脂肪が横隔膜運動の制限など解剖学的に肺の拡張をより制限し,炎症反応を亢進させるなど酸素化能を低下させ得るとの仮説をたてた。そのため今回は腹部大動脈瘤手術患者において内臓脂肪が術後酸素化能に与える影響を調査した。【方法】当院において平成26年11月から平成30年6月までに開腹腹部大動脈瘤手術を受けた患者を対象に酸素化能に影響を与える因子を多重線形回帰分析にて解析した。アウトカムは痛み,シバリング,不安などの因子を除外するため,術後6時間後のPaO2/FiO2 ratio(P/F)とし,調査項目は,内臓脂肪面積(Visceral Fat Area;VFA),皮下脂肪面積,年齢,緊急手術,喫煙歴,手術時間を挙げた。なお,VFA,皮下脂肪面積は臍レベルのCT画像より算出した。【結果】対象は腹部大動脈人工血管置換術を実施された78名(男性62名,女性16名)で,うち緊急手術は30名で,また術後人工呼吸器を必要としたのは38名だった。P/Fの平均値は350.08±113.15となり,多重線形回帰分析を変数減少法で実施した結果,VAT,緊急手術の2因子が抽出された。その結果,回帰式(R =0.413,R2=0.170)y(P/F)=-0.599×VFA-71.546×緊急手術となり,標準化偏回帰係数はそれぞれVFA=-0.278(p<0.01),緊急手術=-0.310(p<0.01)となった。【結論】標準化偏回帰係数の値から判断すると関連のある重要な説明因子としては,順に緊急手術,VFAとなった。開腹腹部大動脈瘤手術後の酸素化能には,皮下脂肪でなく,内臓脂肪が影響し得る。BMIや体重では,筋肉,皮下脂肪,内臓脂肪など全てが含まれるが,今回の調査で術後酸素化能は,内臓脂肪の測定により予期できる可能性が示唆された。