[O156-1] 重篤なARDSでECMO装着となった症例への腹臥位療法の経験
【背景】A病院ICUでは、2015年4月1日から2018年3月31日までに、3例の体外膜型人工肺(ECMO)を装着した重篤な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者に対して腹臥位療法を行った。腹臥位療法は、重篤なARDS患者に対して発症後48時間以内に16時間以上実施した場合に酸素化の改善や28日死亡率が改善するという報告がある。しかし、ECMO装着患者へ腹臥位療法を実施した報告は少ない。そこで今回、ECMO装着となった患者に腹臥位療法を実施することへの影響や、ケア提供体制の整備を見出すことを目的に振り返りを行い、その経験を報告する。【臨床経過】1例目は14歳男性、慢性肉芽腫の治療中にARDSとなり、ICU入室後1日目にECMOを装着した。装着後1日目より無気肺に対して腹臥位を合計26日間、1回平均14.15時間実施した。呼吸状態は改善したが、入室74日目で永眠となった。2例目は70歳女性、急性リンパ性白血病の治療中にARDSとなり、ICU入室後3日目にECMOを装着した。翌日より腹臥位療法開始し呼吸状態は改善したが開始3日目に腹腔内出血のため血圧低下し腹臥位を中断。1、2日目は平均14.6時間、3日目は6時間の腹臥位を実施したのみであった。その後全身状態悪化し、入室22日目で永眠となった。3例目は35歳女性、2次性骨髄線維症、真性多血症の治療中にARDSとなり、ICU入室1日目より無気肺改善目的で腹臥位を実施し、2日目にECMOを装着した。合計6日間、1回平均8.3時間の腹臥位を実施したが入室55日目で永眠となった。今回の3症例で腹臥位実施前後の胸部レントゲンを比較すると、3例全てで改善を認めた。また、P/F比は最大236.3の改善を認め、CO2の値は最大6.3mmHgの減少を認めた。腹臥位の影響と考えられる呼吸や循環の変動、挿管チューブの位置異常や閉塞、計画外抜管、褥瘡は発生しなかった。出血を伴う血圧低下は1件認めたが腹臥位の影響下は不明である。ECMO装着中の腹臥位を実施するために要した最小のマンパワーは、医師、看護師、臨床工学技士含め7名を必要とした。 【結論】 重篤なARDSでECMO装着となった症例への腹臥位の実施は呼吸状態の改善を認めた。しかし、ECMO装着中の腹臥位には高いリスクを伴うため、実施には安全に行うためのスタッフ教育や、症例に応じた事前準備、多職種の治療方針に対する共通認識と共働が必要である。