第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

補助循環 症例

[O28] 一般演題・口演28
補助循環 症例02

2019年3月1日(金) 10:30 〜 11:20 第9会場 (国立京都国際会館2F Room B-2)

座長:荒川 裕貴(東京都立多摩総合医療センター 救命救急センター)

[O28-4] 頸部血腫と大量喀血による上下気道の同時閉塞に対し、V-V ECMOを用い救命し得た一例

曺 聖鉉, 古川 俊貴, 奥泉 譲, 小川 理 (新潟県立中央病院 救命救急センター)

特発性喀血症とは、器質的疾患を認めない患者の原因不明の喀血を指す。本症に頸部血腫を併発した例は検索した限り報告されていない。

症例は70歳代の男性で、吐血を主訴として救急外来を受診した。救急外来にて上部消化管内視鏡検査を行ったが明らかな異常なく、経過観察入院とした。入院時CTでは右肺上葉に軽度浸潤影を認めた。

第2病日に新鮮血の喀血および呼吸状態の急激な悪化を認めた。全身造影CTを施行したところ、入院時CTでは認めない新規の左深頸部血腫を認め、血腫により咽喉頭が圧排され狭窄していた。さらに右肺上葉の浸潤影が増悪しており、頸部血腫および喀血による呼吸状態悪化と判断し気管挿管による上気道確保を行った。しかし挿管後も気管チューブからの新鮮血流出が続き、換気量の維持が困難であったためV-V ECMOを導入した。ECMO導入後、CT所見より出血源と疑われる右気管支動脈に対し気管支動脈塞栓術(以下BAE)を行った。なお、喉頭ファイバーによる観察で口腔および咽喉頭内に明らかな出血源は認めなかった。

BAE後は一時的に止血を得られたが第4病日に再度喀血を認め、両側気管支動脈造影で右上葉枝の再開通と左下葉枝からのExtravasationを認めたため両部位にBAEを行った。しかし第6病日にも喀血を認め、血管造影で新たなExtravasationや塞栓部の再開通は認めなかったが残存枝のBAEを行った。また、左頸部血腫の原因検索のため左総頸動脈造影を行ったが異常所見は認められなかった。

第6病日以降は喀血を認めず、第11病日にECMOを離脱した。ECMO離脱後、頸部CTを再検したところ頸部血腫は縮小傾向であった。気管切開を行い、頸部血腫が充分に消退したことを確認した上で第31病日に抜管し自然気道とした。抜管後は呼吸状態の悪化なく、第62病日にリハビリ病院へ転院した。

本例は明らかな既存の気管支肺疾患を認めない患者の喀血であり、特発性喀血症に分類される。特発性喀血症は男性の喫煙者に多く、本症例と合致する。
特発性喀血症は喫煙による気道壁の血管増生が原因と考えられており、本例では頸部にも血管増生が生じ、内視鏡の刺激が誘因となり頸部の増生血管が出血し頸部血腫を形成した可能性も考えられる。
喀血症例は血腫による上気道閉塞を併発して急激に呼吸状態が悪化し得ることを考慮し、早期にV-V ECMOを考慮する必要があると思われた。さらに、出血の悪化を防ぐためにはECMO中の抗凝固も慎重に検討する必要がある。