第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

内分泌・代謝 症例

[O3] 一般演題・口演3
内分泌・代謝 症例01

Fri. Mar 1, 2019 3:05 PM - 4:05 PM 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:蒲地 正幸(産業医科大学病院 集中治療部)

[O3-1] 成人期に術後高ナトリウム血症による意識障害を呈し診断された先天性腎性尿崩症の一例

川井 康弘1,2, 赤星 朋比古1, 生野 雄二1,2, 賀来 典之1, 牧 盾3, 徳田 賢太郎3, 柏木 英志4, 白石 航一1,4, 江藤 正俊4, 田口 智章1 (1.九州大学病院 救命救急センター, 2.九州大学大学院 病態機能内科学, 3.九州大学病院 集中治療部, 4.九州大学大学院 泌尿器科学)

【背景】腎性尿崩症は、抗利尿ホルモンの集合管に対する作用低下から、多尿、口喝、夜間頻尿をきたす疾患である。抗利尿ホルモンV2受容体またはアクアポリン2の遺伝子変異による先天性、高カルシウム血症、低カリウム血症やリチウム等の薬剤による後天性要素が原因となる。成人期の未診断の先天性腎性尿崩症が原因で、術後に高ナトリウム血症による意識障害を呈し、集中治療管理を要した症例はこれまで報告されていない。
【臨床経過】症例は35歳男性、タイ王国出身、入院2年前より日本に在住していた。入院3ヵ月前に健診で左腎腫瘍を指摘され、当院泌尿器科を受診し、ロボット補助下左腎部分切除術が行われた。手術直後の血清Na濃度は149 mEq/Lだったが、術後9時間で6600 mLの多尿になり、術後1日目の血清Na濃度は178mEqに上昇し意識障害 (GCS:11点, E3V4M4)をきたした。院内救急対応システムが要請され、高ナトリウム血症による意識障害の治療目的に集中治療管理を開始した。5%ブドウ糖液での補正を開始したが血清Naは低下しなかった。尿中Na濃度 16 mEq/L、尿浸透圧76 mOm/Lと著明な希釈尿だったため、デスモプレシンの点鼻および合成バソプレシンの静注を行ったが、尿量減少や尿浸透圧上昇は得られなかった。血清ADH濃度は41.2 pg/mL(正常値 2.8 pg/mL以下)と高値であり、腎性尿崩症と診断した。同日ヒドロクロロサイアザイド50 mg、インドメタシン100 mg内服を開始したところ、尿中Na濃度は32 mEq/Lに上昇、術後2日目血清Na濃度は161 mEq/Lに低下し意識は清明になった。幼少期から多飲、多尿だったこと、実弟が1年前に尿崩症と診断されたこと、母方の叔父も尿崩症であることから、遺伝性の腎性尿崩症と判断した。自由水の飲水を行い、術後5日目血清Na濃度 142 mEq/Lと正常化したため、集中治療室を退室した。浸透圧性脱髄症候群をきたすことなく、術後16日目に退院した。
【結語】未診断の先天性腎性尿崩症が原因で、術後の飲水困難から意識障害を伴う、高ナトリウム血症をきたした症例を経験した。術後に多尿、高ナトリウム血症を生じた場合は、早期に尿比重および尿中電解質を測定し、治療を開始することが必要である。治療抵抗性の場合は、腎性尿崩症を鑑別に加えて検査および治療を行うことが臨床転帰に影響を与えうる。