[O31-4] 肺腺癌治療中に合併した腸管病変の原因としてゲフィチニブの関与が疑われた1症例
【緒言】 分子標的薬の副作用として腸管気腫症や腸管穿孔などが報告されている。我々は肺腺癌に対しゲフィチニブ治療中に腸管病変を合併した症例を経験した。【症例】84歳、女性。高血圧の既往があった。肺腺癌に癌性胸水を合併し胸膜癒着術が実施されたが、心房細動を合併した。20日後にゲフィチニブの投与が開始されたが下痢症状が持続した。投与約1か月後に呼吸苦・腹痛を主訴に来院し、造影CT検査で回腸全域の造影効果消失、門脈ガス、上腸間膜静脈内ガスを認め小腸壊死疑いで緊急開腹術を実施した。小腸壁の一部に気腫を認めたが壊死には至っておらず試験開腹で終了した。術後は胸膜癒着術が原因と考えられる呼吸不全を合併し、その後も呼吸苦は持続した。ゲフィチニブ投与は中止した。術後6日目から食事を開始したが、8日目に腹痛を訴え、造影CTで消化管穿孔を疑うfree airを認め再開腹術を実施した。小腸穿孔と壁の菲薄化を認め、穿孔部閉鎖術を実施した。術後に敗血症性ショックを合併し、平均動脈圧>65mmHgにノルアドレナリン0.14mcg/kg/min、アドレナリン0.04mcg/kg/minを必要とした。一部切除した腸管の病理所見では微小穿孔部の再生性穿孔が示唆された。人工呼吸管理、持続血液濾過透析を含めた集学的治療で快方に向かったが、再度穿孔を合併したため、ベストサポーティブケアで対応することとなり18日目に死亡した。【考察】分子標的薬による有害事象として粘膜の修復障害、腸管絨毛の毛細血管減少による虚血などが推測されている。本症例でもゲフィチニブ投与後に下痢が持続していること、初回手術での腸管嚢胞性気腫症に類似した術中所見、2回目の手術の切除腸管の病理所見から、ゲフィチニブ投与により上述した機序で一連の小腸病変を合併した可能性が高い。上皮成長因子受容体(EGFR)は粘膜再生に関与しており、損傷後30分以内にEGFRチロシンキナーゼ活性が有意に上昇し、この酵素の活性化が回復過程の開始において重要な事象であるといわれている。ゲフィチニブを中止した際に酵素活性がどの程度復活するのかは不明であり、注意深い観察での対応を余儀なくされた。加えて、肺腺癌に対して胸膜癒着術が実施され、呼吸機能の観点からも術後管理が困難な症例と考察された。【結語】ゲフィチニブ投与症例では投与する原疾患の病状の変化に加え、投与期間中のみならず投与終了後のある程度の期間は腸管病変の合併に注意が必要である。