[O35-2] 多職種の連携により、冠動脈パイパス手術後の冠動脈スパスムを救命しえた一例
【背景】冠動脈バイパス手術後の冠動脈スパスム(refractory coronary spasm; RCS)の発生率は0.4%と稀であるが、死亡率は高い(Lorusso.2012)。我々は心拍動下のバイパス手術(OPCAB)直後にRCSを生じたものの、様々な診療部門の協力で救命しえた一例を、過去の文献を踏まえ報告する。【臨床経過】70代男性。既往は高血圧、胆嚢摘除後、そして前立腺癌術後の放射線照射である。3か月前から夜間の呼吸苦があり救急外来を受診した。後日の冠動脈造影で前下行枝近位の100%閉塞が指摘された。入院後経過:OPCAB(左内胸動脈-前下行枝吻合)を終えICU到着直後、血圧低下と心停止が生じた。再開胸し、右大腿動脈送血-右房脱血によるPCPS(2.4L/min/m2)を開始した。手術室に移動し右房脱血から左大腿静脈脱血のPCPSに乗せ換え、血管修復・止血術、IABP挿入を行った。再手術直後の冠動脈造影では3枝のRCSであり、冠動脈へのニトログリセリン・ニトロプルシド投与に僅かに反応する程度であったが、3日後の再検査ではRCSは解消し、EFは20-30%に改善した。放射線治療後の脆弱な腸管の虚血による下血と、炎症反応の上昇があり、術後4日に消化器内科医が内視鏡的アルゴンプラズマ凝固術を施行し、引き続き腎臓内科医によりCHDFが開始され、徐々に心機能は改善した。手術室で全身麻酔下に、PCPS抜去(7日)とIABP抜去(11日)を行い、術後17日に抜管した。術後21日にはカテコラミンが終了でき、術後30日にICU退室となった。【結論】冠動脈バイパス手術後のRCSは様々な要因で起こりうると考えられている。カテコラミンの多量投与では対応が困難で、侵襲的な循環補助(IABP,PCPS,あるいはECMO)、冠動脈造影による診断確定、そして血管拡張薬の冠動脈内投与や全身投与が、速やかに行われなくてはならない。RCSの治療には、適切な介入と多くのスタッフの尽力が必要である。