[O4-3] SGLT2阻害薬内服中に血糖上昇を伴わない糖尿病性ケトアシドーシスを発症した一例
【背景】
SGLT2阻害薬は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクを増加させる可能性がある。血糖上昇がなく病歴、身体所見と酸塩基平衡、血中ケトン体異常上昇によりDKAと診断した症例を経験したため報告する。
【臨床経過】
80代女性、2型糖尿病の既往がありSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬を内服していた。ICU入室4日前より食欲不振、咳嗽を認め、徐々に症状増悪しICU入室当日に近医受診した。代謝性アシドーシス、尿中ケトン体陽性を認め、DKAの疑いで当院転院搬送となった。来院時、意識清明、頻脈、頻呼吸、大呼吸を認め、血糖171 mg/dLと軽度高値、pH 7.151, PaCO2 17.9 mmHg, アニオンギャップ28 mmol/Lとアニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシス、血中ケトン体15796 umol/Lと上昇を認め、DKAの診断とした。速効型インスリン持続投与と補液を開始し、10時間後にはpH7.358, PaCO2 21.4 mmHg, HCO3- 11.7 mmol/L, 24時間後にはpH 7.429, PaCO2 26.6 mmHg, HCO3- 17.3 mmol/L, 血中ケトン体7355 umol/Lまで改善した。血糖は170-230 mg/dLで経過した。ICU day2 より速効型インスリンを混注したブドウ糖を含む補液を開始した。ICU day5 には頻脈、頻呼吸の改善を認めた。ICU day6より食事を開始した。胸部CT上、両側肺背側を中心としたすりガラス陰影から肺炎の診断でICU day1よりセフトリアキソン開始した。DKAの契機として肺炎が考えられた。血糖コントロール、肺炎含めて状態安定したため、ICU day11に一般病院転院となった。
【考察】
SGLT2阻害薬には尿中への糖排泄促進により血糖低下作用があるがグルカゴンの分泌促進作用もあり、グルカゴン分泌は血中ケトン体を増加させる。このためSGLT2阻害薬内服中は血糖が上昇しないDKAのリスクとなる。本症例も症状からDKAを疑い酸塩基平衡と血中ケトン体から診断に至ったが、血糖の異常上昇は認められなかった。1型糖尿病の合併症として知られるDKAだが、SGLT2阻害薬内服中は2型糖尿病でもDKAとなるリスクがあり、血糖正常でも症状と酸塩基平衡からDKAを鑑別する必要がある。
【結論】
2型糖尿病患者でもSGLT2阻害薬内服中は血糖上昇のないDKAを発症しうる。