[O4-5] III度熱中症で2峰性の横紋筋融解症を合併し重症化した成人1症例
【背景】遺伝子多型による脂肪酸代謝異常が,熱中症による横紋筋融解症の重症化に関与していることや,プロポフォールがミトコンドリア機能を障害することで横紋筋融解症に関与することが報告されている。今回,熱中症で搬送され,プロポフォールで鎮静を行っていた経過中に2峰性の重篤な横紋筋融解症を発症したため,プロポフォールが潜在的な先天性代謝異常症を増悪させたと考え,遺伝学的検査を行った症例を経験したので報告する。【臨床経過】40歳代の男性。6月×日に外気温33度の屋外で10 kmのランニング後に意識消失し救急搬送された。入院時の意識レベルはGCS 3点,心拍数 168回/分,血圧 89/52mmHg,呼吸数 33回/分,腋窩温 40.6度であった。中枢神経障害,肝・腎機能障害,血液凝固異常を認めIII度熱中症と診断した。経過中にcreatine kinase(CK)・ミオグロビンの上昇があり横紋筋融解症も合併した。第3病日からプロポフォールを開始し,平均1.4 mg/kg/hで使用した。無尿のため持続血液濾過透析を施行し,ミオグロビン値は1262 ng/mLまで低下したが,第6病日からミオグロビンの再上昇を認め,10,000~15,000 ng/mLと増加した。プロポフォール注入症候群を疑い第8病日に鎮静薬をミダゾラムに変更したが,ミオグロビン値は運動器リハビリテーションの開始に伴い40,000~50,000 ng/mLと増加したため,リハビリテーションを中止し安静を指示したが最大287,400 ng/mLまで増加した。同時にCK-MB・肝逸脱酵素の上昇,プロトロンビン時間の延長も認めた。持続血液濾過透析,ダントロレンナトリウムの投与によりミオグロビン値は減少し,第26病日には 約5,000 ng/mLまで減少した。第31病日に透析療法から離脱し,第45病日に転院した。幼少期からミオグロビン尿を自覚されていたことや,プロポフォール中止後も横紋筋融解症が増悪したこと,ミオグロビンの著明な高値や,それに伴う心筋障害・肝障害から,プロポフォールがミトコンドリア機能を障害し先天的代謝異常症を増悪させた可能性を疑ったため,遺伝学的検査を行っている。【結語】Carnitine palmitoyltransferase (CPT) IIの遺伝子多型のうち熱脆弱性タイプは,熱中症による横紋筋融解症の重症化に関連している事が報告されている。本症例では,熱中症のストレス負荷およびプロポフォールの使用により潜在的または後天的に代謝異常が顕在化し横紋筋融解症を重症化させた可能性が示唆された。