第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

中毒

[O45] 一般演題・口演45
中毒03

2019年3月1日(金) 10:30 〜 11:20 第12会場 (国立京都国際会館5F Room 510)

座長:笹野 寛(名古屋市立大学病院 救急科)

[O45-4] 有機リンが疑われたが異なる農薬中毒であった症例

西野 智哉, 福嶋 友一, 大塚 洋幸, 櫻井 馨士, 武田 道寛, 渡邊 悠, 猪口 貞樹 (東海大学 医学部 外科学系 救命救急医学)

【背景】有機リン中毒は、独特の臭気(ニンニク臭)、縮瞳、分泌物増加が特徴的な農薬中毒で、アトロピン、プラリドキシムという特異的拮抗薬がある。特にプラリドキシムはリン酸化アセチルコリンエステラーゼ(AChE)がエージングする前(24~48時間以内)でないとAChEを再活性化できないため早期投与が必要であり、確定診断を待たず投与することも考慮される。その際鑑別として挙がるのがカーバメート中毒であるが、今回我々は独特の臭気、縮瞳、分泌物増加をきたすも有機リンでもカーバメートでもない農薬中毒であった症例を経験したので報告する。【臨床経過】既往に高血圧、てんかん、うつ病を持つ70歳男性が、4月某日自室内布団上で泡を吹いて倒れているのを、帰宅した同居の家族が発見し救急要請となった。来院時JCS3、呼吸24回/分、心拍数89回/分、血圧140/80mmHg、体温36.4度、SpO2 99%(10L)、瞳孔2.0+/2.0+で口腔内に分泌物の著明な貯留、ニンニク臭を認めた。被疑薬として、それぞれ有機リン、グリホサート、ペルメトリンが主成分の農薬を救急隊が持参したが、患者は農薬を過量内服したがどれを内服したかは分からない、と言った。口腔内分泌物も多く、気道確保目的に気管挿管しプラリドキシムを投与した。血液検査では低酸素血症、白血球上昇を認めたがコリンエステラーゼは基準値内、トライエージDOAでベンゾジアゼピン、フェノバルビタールが陽性であったが尿中有機リン定性検査は陰性であった。フェノバルビタール血中濃度は31.5μg/mlであった。左下葉背側に無気肺、誤嚥性肺炎を認めたため抗生剤投与、人工呼吸器下全身管理を行った。第2病日に行った有機リン定性も陰性であった。第4病日には意識障害改善し第11病日抜管、全身状態良好であるが精神的に不安定のため第24病日精神科病院へ転院となった。コリンエステラーゼは徐々に低下し、第4病日に123IU/L、その後徐々に回復し第15病日、基準値内となった。第9病日に、来院時血中ペルメトリン濃度が934.1ng/ml、血中有機リン系成分検出されず、ニトラゼパム501.6ng/mlであったことが判明し、本症例は急性ペルメトリン・ベンゾジアゼピン中毒であったと考えられた。【結論】中毒症状が典型的であっても、合致しない点があれば異なる物質、あるいは複合的な中毒や疾患を想起すべきである。