[O57-7] 拡大胸腺摘出術後に合併した筋無力症クリーゼに対して選択的血漿交換療法が有用であった1例
【背景】近年,通常の膜型血漿分離器より孔径の小さい血漿分離器を用いた選択的血漿交換の有用性に関する報告が増えている.その特徴としては,IgMクラスの抗体までは除去できないがIgG1-4クラスまで除去可能である点と,凝固因子の保持が可能であるため連日頻回に施行することも可能な点である.拡大胸腺摘出術後に合併した筋無力性クリーゼに対して選択的血漿交換療法で管理した症例報告はこれまでにない.【臨床経過】症例76歳,男性.眼瞼下垂と複視を主訴に前医を受診した.テンシロンテストで症状改善し,反復刺激で筋電図上waning現象がみられ,抗AchR抗体71nmol/Lと陽性であることから全身型重症筋無力症と診断され,ピリドスチグミン臭化物の内服治療が開始された.胸部CT検査で胸腺腫が指摘されたため,手術加療目的に当院紹介となった.全身麻酔下に胸骨正中切開拡大胸腺摘出術が施行され,術後ICUに入室した.POD1に自発呼吸トライアルでも呼吸状態安定していることを確認し術後18時間で抜管したが,抜管後数十分で呼吸筋麻痺のため再挿管となった.臨床症状から筋無力症クリーゼと考え,血漿交換療法を開始する方針とした.本例では抗AchR抗体が陽性でありIgG1または3がターゲットとなるため,血漿交換療法のモダリティとしては単純血漿交換(PE),二重濾過血漿交換(DFPP),免疫吸着(IAPP),選択的血漿交換(SePE)いずれでも治療可能であるが,術後出血のリスクを鑑み,フィブリノゲン(Fbg)や第13因子を保持したままIgGの除去が可能なSePEを選択した.血漿分離器にEvacure plus EC-4A10(篩係数: アルブミン0.5,フィブリノゲン0,第13因子0.17)を使用し,置換液はアルブミン溶液(患者Plasma Volumeの1.2~1.4倍)とした.初回SePE後に自発呼吸トライアルを行い抜管したが,22時間後に初回抜管時と同様の呼吸筋麻痺が出現し再挿管となったため,以後連日SePEを行い計5回実施した.経過中Fbgは低下せず出血性合併症もなく安全に連日施行できた.POD6に抜管し,その後は呼吸筋麻痺の出現もなく,POD8にICUを退室した.【結論】本症例のように術後に合併した筋無力症クリーゼの場合,PE,DFPP,IAPPでは凝固因子の欠乏から出血性合併症を来す可能性があるため,凝固因子を保持し出血リスクを最小限に抑えることができるSePEは有用と考えられる.ただし,PEやDFPPと比して,SePEではIgGの除去量がやや低くなるため総処理量を若干増やす必要がある点に注意が必要である.