[O59-5] 脂肪塞栓により惹起されたparoxysmal sympathetic hyperactivityの一例
【はじめに】paroxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)は本邦での報告例はまだ少なく、病態認識も不充分である。今回我々は、若年男性の大腿骨転子下骨折後の脂肪塞栓症にPSHを併発し、ガバペンチンとブロモクリプチンの投与により奏功した一例を経験したので報告する【症例】18歳男性。生来健康で明らかな既往歴なし。バイクでの交通事故のため当院へ救急搬送された。搬送直後のバイタルサインが意識はJCS1 血圧126/76 mmHg、脈拍118回/分、身体診察上顔面蒼白で冷や汗、抹消冷感を認め両側橈骨動脈の触知も不安定でありショックと判断した。輸液反応性は良好で、左大腿骨転子下骨折の診断となり、翌日の手術方針となった。その後、直逹牽引施行とした。しかし、来院後12時間後に急激な呼吸状態の悪化と意識障害を認め、鶴田の診断基準を満たし脂肪塞栓症の診断となった。大腿骨転子下骨折に対する緊急手術の後に施行し、緊急MRIを撮影したところ拡散強調画像で多数の小高信号域を認めていた。ICU管理中より、39度を超える高体温と頻脈、日中夜間通じた多量の発汗がみられ、PSHと診断した。第11病日からガバペンチンとブロモクリプチンの投与を開始とし、その後、発汗や頻脈症状は改善を認め、第38病日に整形外科へ転科となった。【考察】PSHは脳損傷後に起こる発作性の自律神経亢進症状を呈する病態で発汗や頻脈、血圧上昇が典型的な症状である。PSHは比較的若年に起こる事が多いとされるが、日本ではその報告も少なく診断基準も存在しない。本例ではPSHが脂肪塞栓による多発脳梗塞から惹起された事が考えられたが、本邦では脂肪塞栓でのPSHは報告がない。今回、我々は脂肪塞栓によりPSHを来たした症例に対してガバペンチンおよびブロモクリプチンで加療を行い、良好な転機が得られたため、その機序や文献考察を踏まえて報告する。