第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

産科・婦人科

[O6] 一般演題・口演6
産科・婦人科

Fri. Mar 1, 2019 5:55 PM - 6:45 PM 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:小山 薫(埼玉医科大学総合医療センター麻酔科)

[O6-2] 積極的除水を含めた集学的治療により救命に成功した重症HELLP症候群の一例

九住 龍介, 越後 整, 平泉 志保, 野澤 正寛, 塩見 直人 (済生会滋賀県病院 救急集中治療科)

1.背景
HELLP症候群とは,妊産婦にみられる溶血・肝酵素上昇・血小板減少を主徴とする症候群である.病態としては未だ不明な点も多いが,妊産婦に発症する血栓性微小血管障害症(TMA)と考えられている.治療の基本は分娩であり,分娩後急速に回復することが多いが,多臓器不全や合併症により死に至ることもあり,特に脳出血は母体の死因として45%を占める.今回,脳出血・産科DIC・ARDS・急性腎障害(AKI)による体液貯留という複数の重篤な合併症を伴い,分娩後も症状が遷延した重症HELLP症候群の患者に対して,血液浄化療法による積極的除水を含めた集学的治療が奏功したので,報告する.

2.臨床経過
【症例】34歳,女性.
【病歴】特に既往のない妊娠32週6日の妊婦.突然の心窩部痛・頭痛・嘔吐・下痢を主訴に救急を受診された.急性胃腸炎として経過観察となっていたが,来院3時間後に意識レベルがGCS E1V1M5まで低下し,頭部CTでは左被殻から前頭葉皮質下にかけて脳出血を認めた.直ちに鎮静下に人工呼吸管理を開始し,収縮期血圧>200mmHgの高血圧に対して降圧を行った.採血では肝腎機能障害・溶血性貧血・血小板減少を認め,経過と併せてHELLP症候群と診断した.母体救命のため緊急開頭血腫除去術を行い,引き続き帝王切開術を施行し,ICU収容とした.
【経過】溶血性貧血・血小板減少に加えて産科DICによる出血傾向も併発しており,濃厚赤血球・新鮮凍結血漿・濃厚血小板輸血とハプトグロビン投与・抗DIC療法を行った.一方AKIが進行し,第2病日より輸液負荷に反応しない乏尿状態となり,ARDS・胸腹水貯留・浮腫を発症したため,人工呼吸器管理継続・腹臥位管理導入に加えて,持続的腎代替療法による除水を開始した.第3病日から第7病日までで計19Lもの積極的な除水を行い,呼吸状態と画像所見上の改善を認めたため抜管し,血液透析へ移行した.その後腎機能は徐々に改善し,第13病日に血液透析を離脱できた.脳出血の後遺症として右片麻痺・失語が残存したが,リハビリにより改善傾向となった.児についても後遺症なく生育している.

3.結論
HELLP症候群の初期には血管内皮障害により血管透過性の亢進をきたし,有効循環血液量が減少する.本症例では,AKIの合併後に積極的な除水を行い病状の改善を得たが,これはHELLP症候群が強いリフィリング現象を伴う病態であることを示唆すると考える.