第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

栄養

[O75] 一般演題・口演75
栄養04

2019年3月2日(土) 11:05 〜 11:45 第9会場 (国立京都国際会館2F Room B-2)

座長:中村 利秋(長崎労災病院 救急集中治療科)

[O75-1] 【優秀演題(口演)】敗血症における代謝破綻と血中遊離アミノ酸の意義

堤 理恵1, 山本 智子1, 中西 信人2, 阪上 浩1 (1.徳島大学大学院 医歯薬学研究部 代謝栄養学分野, 2.徳島大学病院 救急集中治療部)

【背景】我々はこれまでに重症病態におけるエネルギー代謝抑制機序について報告してきた。組織低酸素や炎症性サイトカインが解糖系亢進、乳酸産生を誘導しTCA回路を抑制、ATP産生が低下する。一方で血中遊離アミノ酸は上昇することを見出した。【目的】血中遊離アミノ酸上昇がエネルギー代謝抑制を誘導すると仮説立て、その意義を検討することを目的とした。
【方法】ICU入室の患者を対象とし、入室後1,3,5,7日目に代謝測定、採血を行い前向き観察研究とした。血液サンプルを用いてCE-MS法によるメタボローム解析を行い、代謝物質量を評価した。また代謝変化の機序を明確にするためにC57BL/6マウスおよびmTOR+/-マウスを用いて血液・臓器の代謝質量およびエネルギー消費量を評価した。統計解析にはGraphPadPrism5.0を用いた。
結果】対象患者は41人で平均年齢は66.3±7歳(男性24人、女性17人)、APACHEII中央値は26.9±11.0であった。入室後24時間以内の平均安静時エネルギー消費量は1,112+78.3 kcal/日であり、3日目に低下し(1017kcal/day)、7日目に増加した(1420kcal/day)。メタボローム解析では入室1日目から3日目にかけて、ピルビン酸、アセチルCoAをはじめとする糖代謝産物の産生量およびATP産生量が低下し、乳酸値は増加した。アミノ酸代謝産物は、30日以上生存例では3日目に遊離アミノ酸濃度が上昇したのに対し、死亡例では変動が生じなかった。マウスにおいても敗血症誘導に伴いアミノ酸濃度が上昇し、エネルギー消費量およびATP産生の低下が認められた。この際の機序としてPHD2および低酸素誘導因子HIF1αがPDK4活性の上昇、これによるPDHおよびアセチルCoAの抑制を誘導していることが示唆された。一方でアミノ酸を感受するmTORを欠損したマウスでは代謝低下が認められず、乳酸値の上昇、TCA回路の抑制も生じなかったが、重度敗血症誘導時の死亡率が有意に高くなった。また、遊離アミノ酸放出はT細胞との関連は示されたが、筋分解、脂肪細胞におけるアミノ酸局在との関連は明らかにならなかった。
【結論】重症病態では遊離アミノ酸が上昇がHIF1α、PDK4活性を誘導し、解糖系亢進や乳酸産生が生じ、好気性代謝が抑制されている。血中遊離アミノ酸の上昇は代謝抑制をもたらすことで侵襲からの生命保護に寄与していると考えられる。