[O86-3] フレイルチェストを伴う多発肋骨骨折に対して受傷後早期に手術を実施し救命し得た一症例
[背景]日本にはフレイルチェストに対する治療ガイドラインは存在せず、EASTガイドライン(An Eastern Association for the Surgery of Trauma practice management guideline,2012)においても肋骨固定の位置づけは、人工呼吸管理からの離脱が困難である場合と、他の原因で開胸手術を行う際に実施するという弱い推奨にとどまっており、手術時期に関する指針はない。しかし近年、胸郭固定は呼吸機能を改善するのみではなく、疼痛を緩和することで呼吸器合併症を予防することが可能であり、人工呼吸期間や集中治療室滞在日数の短縮を目的に、フレイルチェストに対する胸郭固定術の有用性を報告したものが散見される。その中で、受傷から手術までの時間が短いほど入院期間や人工呼吸期間が短縮されたという報告や、入院後48時間以内に固定術を行うことを推奨するという報告がなされている。当センターでは原則的に救命救急センター搬入後可及的速やかに外固定術を行っているが、今回、フレイルチェストを伴う多発肋骨骨折、気胸、縦隔気腫、皮下気腫を認めた症例に対して受傷後6時間に外固定術を行うことで、受傷後早期に抜管と殺企図にて覚醒剤を注射後5階から墜落し、当センターに救急搬送された。来院時気道は開通していたが、頸部~左胸部に皮下気腫があり胸郭動揺性を認めた。GCS 4 3 6、末梢冷感あり(shock index 1.5)、不穏状態であった。画像検査で左多発肋骨骨折(第4~11肋骨)、左血気胸、骨盤骨折、外傷性くも膜下出血、左下腿骨折、右足部解放骨折、右肩甲骨骨折と診断された。救命センター外来で気管挿管、胸腔ドレーンを挿入した後に内腸骨動脈、左肋間動脈に対して塞栓術を施行し、続いて多発肋骨骨折に対して外固定術を施行した。術後ICUにおける胸部X線検査で肺の拡張は良好であり、徐々に皮下気腫も改善し、受傷後2日で抜管し得た。その後も呼吸状態は安定しており、術後7日目にICUを退室した。[結論]本症例は重症例ではあったが、救命センター搬入後、確定診断・手術術式を決定し、迅速に肋骨骨折に対して外固定術を行うことで、早期に人工呼吸器を離脱し新たな合併症を回避し得たことで救命に繋がったと考える。