[O94-2] 市中感染型MRSAによる感染性心内膜炎・髄膜炎の一例
【背景】市中感染型MRSA(Community acquired MRSA:CA-MRSA)感染症は、MRSA感染のリスクを有さない健常人に発症するものと定義される。CA-MRSAは通常の院内感染型MRSAより強毒株であり、皮膚軟部組織感染症を起こすことが多く、稀に壊死性肺炎や菌血症を起こす。本邦でも壊死性肺炎などの致死的なCA-MRSA感染症の報告例は散見される。今回、市中感染型MRSAによる感染性心内膜炎・髄膜炎の一例を経験したため報告する。【臨床経過】82歳、男性。5年前に当院で大動脈弁置換術(生体弁)、冠動脈バイパス術を施行され、高血圧、2型糖尿病にて近医通院中。受診前日までは普段と変わりなかったが、受診当日夜に風呂場で仰向けに倒れている本人を家族が発見し、当院へ救急搬送となった。右眼瞼結膜、右小指、左環指に出血班があり、項部硬直を認めた。発熱を伴う意識障害であり、細菌性髄膜炎に準じてCTRX、ABPC、VCMによる治療を開始した。第2病日に血液培養よりブドウ状のグラム陽性球菌(GPC)が検出されたため腰椎穿刺を行ったところ、髄液細胞数1790/μlと多核球優位に上昇し、グラム染色でGPCを認め、細菌性髄膜炎と診断した。呼吸状態が悪化したため、同日気管挿管、人工呼吸器管理とした。血液・髄液培養より検出されたGPCはMRSAであることが判明し、抗菌薬はVCM単剤とした。第3病日の経食道心臓超音波検査で、左冠尖から右冠尖側に低輝度8mm長の構造物を認め、感染性心内膜炎と考えられた。第4病日の頭部CTで右側頭後頭葉に広範な低吸収域を認めた。VCM MIC値は1μg/mlで、VCMのトラフ値は15μg/mlを下回ることはなかったが、血液培養は陰性化しなかった。全身状態は徐々に悪化し、第13病日死亡した。検出されたMRSAのPanton-Valentine Leukocidin(好中球融解毒素)は陰性であった。【結論】重篤な臨床経過で、かつリスクのない患者の血液・髄液などの検体よりブドウ状のGPCが検出された場合は、起因菌としてCA-MRSAを考慮すべきである。