[O99-1] ECPRにおける初回ヘパリン投与量が出血性合併症に及ぼす影響
【背景】ECLS(Extracorporeal Life Support)を要する患者は、体外循環回路中での血小板と凝固因子の持続的な消費に加え、回路の血栓閉塞を予防するための抗凝固療法により、出血性合併症を起こしやすい。また、心肺蘇生における胸骨圧迫は、肋骨骨折や胸腔内出血を来たしうるため、ECPR(Extracorporeal Cardiopulmonary resuscitation)では、心原性ショックに対するECLSに比べ、出血リスクにより注意する必要がある。一般に、ECLSのカニュレーション時に50-100 U/kgの未分画ヘパリン(UFH)のボーラス投与が推奨されるが、投与量に明確な基準はない。院外心停止(OHCA)に対するECPRでは、患者背景が不明瞭な状況下での導入を余儀無くされることも多く、出血素因の有無で初回UFH投与量を調整することは難しい。当院では、2016年4月より、患者への過度なUFH投与を防ぐ目的に、ECMO導入時のACT値を測定し、UFHのボーラス投与量を決めており、その効果について検討した。【目的】ECPR時にACT値に応じてUFHボーラス投与量を調整することで、出血性合併症が減るかどうかを検証した。【方法】診療録を用いた単施設後ろ向き観察研究。2013年4月から2018年3月までに当院でECPRが行われた成人OHCA患者(n=64)を対象とした。ICUに入室できず、ERで死亡した患者は除外した。主要評価項目は入院中の出血性合併症(頭蓋内出血、肺胞出血、カニューレ刺入部出血、消化管出血)発生の有無とし、副次評価項目はICU入室直後のACTの過延長(>300 sec)の有無、血栓性合併症(脳梗塞、回路血栓閉塞)発生の有無、28日死亡率とした。患者をA群(従来群:n=32, 2013年4月-2016年3月)、B群(調整群:n=32, 2016年4月-2018年3月)の2群に分け比較した。【結果】 A群とB群で、28日死亡率に差は認めず(81.3% vs 84.4%, p=1.00)、出血性合併症において、カニューレ刺入部出血はB群で少ない傾向(25% vs 6.3%, p=0.082)を認めたが、その他の項目を含め有意差は認めなかった。また、入院直後のACT過延長は有意にB群で少なかった(34.4% vs 9.4%, p=0.032)。なお、B群において、ACT過延長を認めた4人の患者のうち3人はもともと内服薬として抗凝固薬(ワーファリン)を内服していた。【結論】ECMO導入時にACTを測定しUFHボーラス投与量を調整することは、出血性合併症発生率減少には寄与しないものの、直後のACT過延長(>300 sec)の頻度を下げる可能性が示唆された。