[O99-5] 機動衛生ユニットを用いたECMO装着患者の航空医療搬送の変遷
【背景】当隊は機動衛生ユニットを用いて搬送元及び搬送先病院近傍の飛行場間の航空医療搬送を計39例行ってきた。この39例はいずれも他搬送手段ではその重症度や搬送距離、患者に付随する医療機器類等の観点から搬送不可能と判断された症例である。第1例目の搬送を行った平成23年以降現在まで振り返ると、ECMO装着患者の搬送、即ちECMO搬送は計13例であった。それら13例の搬送時期と年齢層をみると、当隊による長距離のECMO搬送を要する症例の年齢層が成人から小児へ変遷していることが判明した。【目的・方法】当隊の過去のECMO搬送全例を分析し、その結果より現在の国内における医療体制の現状と課題を考察する。【結果】ECMO搬送症例の病態は心筋症や心筋炎による重症心不全が最も多く(全13例中11例)、他は間質性肺炎や骨髄移植後肺障害による重症呼吸不全が2例であった。補助形式としてはVA-ECMOが11例(成人7例、小児4例)、VV-ECMOが2例(成人・小児各1例)であった。搬送目的はいずれもVAD装着及び心臓移植手術や肺移植手術を受けるための転院で、いずれも他県への長距離搬送であった(病院間直線距離:中央値575.0km)。ECMO装着患者の年齢層は、20歳以上の成人例が8例、0歳1か月~13歳の小児例が5例であり、成人例8例が平成24年から平成29年3月までの間に搬送されて以降は平成30年9月現在まで成人例の搬送は一切なく、平成29年4月以降現在にかけては全て小児例の搬送である。【結論】現在国内では、成人患者のVAD装着認定施設は多数あり、ECMO装着を要する重症心不全の患者が長距離の搬送を行われる必要性が低下してきている可能性がある。その一方で、小児患者のVAD装着認定施設は圧倒的に少なく、年間に小児心臓移植手術を達成できる症例数も僅少の中、保険償還内で小児に装着可能なVADも極めて限定的である。そのため、小児患者では救命のために長距離の移動を余儀なくされる症例が依然として存在するものと思われた。当隊のECMO搬送例は全13例と少ないが、この13例は他搬送手段では搬送不可能と判断された症例であり、このECMO搬送症例の年齢層の変遷は以上のような移植医療や搬送体制の国内の現状を示唆していると考えられた。引き続き国内での移植医療体制整備を進めることと、長距離の移動を余儀なくされている重症患者を安全に送り届けるための搬送体制の構築が重要な課題である。