[P100-7] 統合失調症が疑われた抗NMDA受容体脳炎の男児例
【背景】抗NMDA受容体脳炎は若年女性に好発し、統合失調症様精神症状・けいれん発作・無反応や緊張病性昏迷状態・中枢性低換気・奇異な不随意運動が5徴とされている。今回統合失調症が疑われた男児の抗NMDA受容体脳炎の一例を経験したので報告する。【臨床経過】生来健康で出生歴に異常のない12歳男児。入院の約1か月前から右下肢の脱力を認め、同時期より不眠や食思不振があった。興奮した状態で帰宅するなどのエピソードがあり、近医心療内科を受診し、向精神薬を処方されたが改善しなかった。その後、希死念慮が出現した。一時は改善したが無反応、注察妄想や被害妄想などの統合失調症様精神症状も出現するようになり、家族に対して暴力を振るうようになったため、統合失調症、急性一過性精神病性障害の疑いと診断され精神科病院に措置入院となった。しかし、入院後に全身性の痙攣を認め、当院救命救急センターに精査目的に転院搬送された。器質的疾患の除外のため、血液・尿・髄液検査、頭部CT・MRI、脳波検査を施行したが明らかな異常所見は指摘できなかった。しかし、急性の経過であったことと精神症状に意識障害を伴っていたため、辺縁系脳炎を疑い免疫グロブリン療法を開始し、その後の検査結果より血中抗NMDA受容体抗体が陽性であり、抗NMDA受容体脳炎の確定診断となった。その後ステロイドパルス療法を3クール、エンドキサンパルス療法を行った。経過中に徐々に意識障害の改善や痙攣の消失があり、抗NMDA受容体抗体も陰性化を認めた。後遺症なく、入院37日目に退院した。【結論】先行する統合失調症様症状がある場合は、器質的疾患の除外が重要であり、抗NMDA受容体脳炎も念頭に鑑別をしていく必要がある。抗NMDA受容体脳炎は、既存の報告では脳波検査上、発作波を認めるのは約23%にとどまり、画像検査上半数は所見に乏しいとされている。そのため、本症例のように臨床経過や症状で判断することが重要である。