[P16-1] 肺保護戦略による重傷ARDS治療中、合併した急性肺性心に対して迅速な右室保護戦略が奏功した1例
【はじめに】急性肺性心は重症ARDSの約2割に合併し、予後不良を示唆する。肺保護戦略はARDS治療の根幹を成すが、急性肺性心を発症した場合、右室機能に主眼を置いた右室保護戦略が有用な可能性がある。右室保護戦略は肺リクルートメントと過膨張のバランスから右室機能を最適に保つために、プラトー圧・駆動圧制限、PEEP設定、PaCO2 60mmHg以下などが挙げられる。今回我々は、肺保護戦略による重症ARDS治療中、突然の心停止に至った急性肺性心に対して迅速に右室保護戦略へ切り替えて救命した1例を経験した。【症例】46歳男性。肺炎球菌性肺炎による1型呼吸不全の診断でICU入室し、抗菌薬の投与と気管挿管・人工呼吸管理が開始された。入室後、敗血症性ショックと重症ARDSの合併から、大量補液および昇圧剤の投与と、気道圧開放換気(高圧相28.0cmH2O、低圧相0.0cmH2O)による肺保護戦略を行った。ベットサイドの心エコー検査で右室腔の拡大を認めなかった。第2病日にAKIに伴う高K血症からCRRTを開始した。第3病日までの総水分バランスは+11Lで、心エコー検査で軽度の右室の拡張を認めたが、昇圧剤は漸減された。しかし、第4病日に突然の徐脈と血圧低下から心停止に至り、3分間の心肺蘇生を行い、自己心拍が再開された。直後の心エコー検査で右室腔の拡大と心室中隔を介した左室圧排像を認め、急性肺性心による心停止が疑われた。直ちに挿入した肺動脈カテーテルからの肺動脈圧は70/45mmHgであり、右室保護戦略として、肺動脈圧、経時的な心エコー検査、水分バランスを主な指標に、従圧式換気モードでプラトー圧27cmH2O以下、駆動圧15cmH2O以下、PEEP8cmH2O以下でnormocapniaを目標にした人工呼吸器管理と、CRRTと利尿薬による積極的な除水を開始した。約3L/dayの除水から水分バランスは約-2L/dayで連日経過し、昇圧剤は漸減され、肺動脈圧は緩徐に低下した。CRRTを離脱した第8病日に行った造影CT検査では明らかな肺塞栓を認めなかった。肺動脈圧は30/25mmHgで、心エコー検査で右室負荷所見は消失した。第16病日に人工呼吸器を離脱し、第54病日に独歩で退院した。【結論】急性肺性心が循環動態に与える影響は大きく、心停止を発症しうる。本症例は肺炎球菌性肺炎による重症ARDSを合併し肺保護戦略を行っていたが、急性肺性心の発症から突然の心停止に至った。急性肺性心に対する迅速な右室保護戦略への切り替えが救命に必要だった。