[P17-2] 経カテーテル的大動脈弁置換術施行中、弁輪損傷によるST変化がみられた一例
【背景】経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)は、低侵襲であるが冠動脈閉塞や大動脈弁輪損傷などの致死率の高い合併症が報告されており、早期に発見し対処する必要がある。今回、TAVI施行中にモニター上、原因不明の一過性ST変化がおこり、弁輪損傷により形成された血腫が一時的に左冠動脈を圧迫していたと考えられた症例を経験したので報告する。【臨床経過】症例は86歳女性。重症の大動脈弁狭窄症、高血圧、心房細動、腎機能障害で外来通院中であった。手術施行5か月前に意識消失をおこし、当院を受診。その後も労作時の息切れがあり、TAVI施行の方針となった。CTで大動脈弁に石灰化病変が指摘されていた。冠動脈にも石灰化はみられたが有意狭窄は認めなかった。観血的動脈圧ライン確保後に全身麻酔の導入を行い、ノルアドレナリン、カルペリチドの持続投与で循環を維持した。経大腿動脈アプローチで手技を開始、大動脈弁バルーン拡張後は明らかな心嚢液はみられなかった。しかし弁輪に23mmSapien3人工弁を留置後、モニター上ST低下を認めた。大動脈造影では冠動脈の描出不良はなく、エコー上も心嚢液の貯留を認めず、ST変化の原因は術前から指摘された左室流出路狭窄が影響していると考えられた。その後ST変化は改善傾向であったため閉創したが、徐々に血圧低下、中心静脈圧上昇を認め、エコー上心嚢液の貯留を認めた。心嚢ドレナージを行ったところ血性の心嚢液が吸引され、血行動態は安定した。原因検索のため施行した左室造影、大動脈造影では明らかな造影剤の漏出はみられなかったが、手術室退室後のCTで左冠動脈付近の弁輪周囲に治療前にはみられなかった血腫の残存を示唆する所見がみられた。以上を総合して考察すると、認められたST変化は、弁輪損傷により形成された血腫による一時的な左冠動脈圧迫が原因であったと考えられた。集中治療室入室後はニカルジピン、ランジオロールの投与で血行動態は安定しており、心嚢液貯留もなく、経過良好で術後19日目に退院となった。【結論】TAVIの周術期にST変化がみられた場合、石灰化病変の移動による冠動脈の閉塞だけでなく、早期に大動脈弁輪損傷の可能性も疑う必要がある。