[P2-1] 集中治療領域における,脳深部刺激術施行後のパーキンソン病患者管理に関する考察-敗血症性ショックの1例-
【背景】平成24年度の厚生労働省の調査ではパーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者は108800人と推定され,集中治療領域で診療する機会も多い。進行期PD患者では体内に治療機器を埋設して治療を行う脳深部刺激術(Deep Brain Stimulation: DBS)の適応となることがある。今回,鼠径ヘルニア嵌頓による小腸穿孔を起こしたDBS施行後のPD患者を経験した。集中治療領域におけるDBSの機器管理や抗PD薬の投与に関して留意すべき点が散見されたので報告する。【臨床経過】76歳,男性。53歳でPDを発症,71歳で当院でDBSを導入した。現病歴:腹痛,発熱により近医受診し,腸管穿孔が疑われ当院へ緊急搬送された。鼡径ヘルニア嵌頓による腸管穿孔,汎発性腹膜炎の診断となった。敗血症性ショックに対し急速輸液,ノルアドレナリン投与を開始し,緊急手術の方針となった。脳神経内科より,DBS刺激装置をoff とし,電気メスはモノポーラではなくバイポーラを使用することを推奨された。穿孔部小腸を約20cm切除,機械吻合をし,腹腔内洗浄後手術を終了し気管挿管のままICUに入室となった。PaO2/FIO2:57と酸素化低下しており人工呼吸管理を継続した。汎発性腹膜炎,敗血症性ショック,誤嚥性肺炎,DICの病態に対してメロペネム投与,大量輸液,ノルエピネフリン (最大0.19μg/kg/min) 投与,PMX-DHP2回,抗DIC治療(AT III製剤,トロンボモジュリン)を行った。同時にL-DOPA製剤静脈内投与, 貼付剤のロチゴチンも開始した。第2病日には血液培養からEterobacter cloacaeが検出された。誤嚥性肺炎が遷延し第6病日の喀痰培養からはIPM,LVFX,PCG,EM耐性corynebacterium striatumが検出され,VCMを追加投与開始とした。第10病日頃よりL-DOPA製剤投与後に体が不随意に動くジスキネジアの症状が出現し,人工呼吸との同期が困難となりSpO2が低下する事象が続いた。脳神経内科にコンサルトし,第13病日に1回投与量を減量(150mg→100mg)したところ症状は改善した。第14病日に気管切開術を行い,第19病日より抗PD薬の内服を再開し,レボドパ点滴投与は終了とした。第23病日には人工呼吸を離脱でき,第31病日にICUを退室となった。【結論】進行期PD患者では,刺激装置操作や抗PD薬の投与に関しては専門性の高い治療が必要となる。集中治療医,外科医,脳神経内科医が緊密に連携し, 進行期PD患者の臨床上の特徴を留意した上で診療にあたることは救命率の向上に寄与すると考えられる。