[P2-2] 卵巣腫瘍切除と免疫療法により早期に回復した抗NMDA受容体脳炎の1症例
[背景]抗N-Methyl-D-Aspartate(NMDA)受容体脳炎は2007年にDalmauらによって提唱された、卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性自己免疫性脳炎である。神経細胞障害が可逆性であるため、生命予後や機能予後は比較的良好とされるが、一般に回復には長期間を要すると報告されている(Kameiらの報告では、人工呼吸期間は平均102日間、入院期間は平均180日間)。今回われわれは、腫瘍切除と免疫療法後、早期に回復した症例を経験したので報告する。[臨床経過]症例は既往のない24歳女性。幻覚妄想で発症し精神病院に入院、第10病日に統合失調症、誤嚥性肺炎の診断で当院を紹介受診した。頭部CT、MRIで異常所見を認めず、胸部CTで肺炎像を認めたため、アンピシリン/スルバクタムにて肺炎の治療を開始した。髄液検査で単核球有意の細胞数増加を認めたが、蛋白、糖は基準値内であった。第13病日に痙攣を認めた。脳波検査では、てんかん性放電を認めなかった。レベチラセタム、ホスフェニトインナトリウムを開始したが、その後も痙攣が頻発し、意識レベルが徐々に低下した。てんかんや精神疾患の既往のない若年女性で、精神症状で急性発症した意識障害に治療抵抗性の痙攣を伴うことから、抗NMDA受容体脳炎を疑い、第18病日に腹部MRIを撮影したところ、左卵巣奇形腫が指摘された。第19病日に腹腔鏡下左付属器切除を行い、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン療法、血漿交換療法を開始した。第23病日、(第11病日に提出していた)髄液検体から抗NMDA受容体抗体が検出され、抗NMDA受容体脳炎と確定診断した。第21病日以降は痙攣を認めず、第29病日に開眼、その後、徐々に追視、離握手が可能となり、第35病日に人工呼吸を離脱した。第59病日、ほぼ意識清明(GCS:E4V5M6、MMSE:21/30)で、会話・歩行・経口摂取可能となり退院した。[結論]卵巣奇形腫を伴う抗NMDA受容体脳炎に対し、早期に診断、腫瘍摘出、免疫療法を行うことで、より早い機能回復が得られ、廃用や深部静脈血栓症等の長期臥床に伴う合併症を避けられる可能性がある。