[P27-4] 成人インフルエンザ脳症の一剖検例
【はじめに】インフルエンザ脳症は主に5歳以下の乳幼児に発症し、急速に進行する予後不良の疾患である.今回,激烈な経過をたどった成人インフルエンザ脳症患者が死亡し,剖検が行われた.文献的考察もあわせて報告する.【症例】36歳の男性.201X年3月Y日,朝から大型車を運転していたが,高速道路上で蛇行運転や交通事故を繰り返し,滋賀県内でガードレールに衝突して停止した.確保された際に,呂律が回らず言動が意味不明で,傾眠であったため,約3時間後に当院に受診となった.Glasgow Coma Scale:E3V3M5,JCS10,体温37.7度,脈拍108回/分,血圧129/85mmHg,経皮酸素飽和度98%(室内気),項部硬直なし,明らかな麻痺はなかった.インフルエンザ迅速検査でA型陽性,脳波検査で広範な徐波化を認め,インフルエンザ脳症と診断し入院となった.MRIでは左右対称性に中心後回などの皮質下白質にFLAIRで高信号をみとめた。ぺラミビル,ステロイドパルスを開始した.入院後酸素化が悪化し,レントゲン上,肺水腫を認め急性呼吸窮迫症候群の診断で,人工呼吸器管理を開始,大量免疫グロブリン療法も行った.入院2日目,持続的腎代替療法も開始したが,どの治療も奏功せず呼吸,循環は悪化の一途をたどり,入院4日目に死亡となった.翌日,法医解剖が行われた.剖検所見:神経病理所見では,脳は1559.6gと重量が著明に増加し,大脳の浮腫とそれに伴う鈎ヘルニアを認めた.肺重量の著しい増加とうっ血水腫を認めた.組織学的に,脳に明らかな炎症細胞浸潤や病原体は認めなかった.肺胞の水腫性変化,炎症細胞浸潤及び硝子膜形成がみられ,急性呼吸窮迫症候群に矛盾しなかった.髄液のインフルエンザPCR検査は陰性であった.【考察】インフルエンザ脳症は,インフルエンザ感染によって惹起されるcytokine stormに伴う全身の血管透過性亢進やapoptosisが主な病態とされている.小児例の病理学的検討では典型的には大脳には著明な浮腫を認めるが炎症細胞の浸潤はなく、インフルエンザウィルスも認めないとされる.本症例でも同様の所見が得られており,インフルエンザ脳症の診断で矛盾せず,病理学的所見に小児例と成人例に大きな違いはなかった.交通事故の原因がインフルエンザ脳症であった稀有な一例であり,初期診断の重要性が示唆された.