[P29] 一般演題・ポスター29
血液・凝固 症例02

[P29-3] 異なる臨床経過を呈した上腸間膜静脈血栓症の2例

西濱 雅充 (済生会横浜市南部病院 麻酔科)

【背景】上腸間膜静脈血栓症（SMV血栓症）は比較的稀な疾患とされている。静脈系の血栓形成は血小板活性化を主体とする動脈血栓と異なり凝固活性化が主体とされ、その成因としては、血液凝固線溶系異常、門脈圧亢進症、炎症性疾患、開腹術後、外傷、医原性などが指摘されている。今回、異なる原因によると考えられたSMV血栓症の2症例を経験したが、臨床経過が大きく異なったので報告する。
【臨床経過】
症例１　41歳、男性。170 cm、85 Kg。
5日前より食後の心窩部痛に対し胃腸炎の診断で近医にて投薬加療されていたが、本人が絶食することにより症状は消失していた。第1病日、食後に激しい心窩部痛を発症し他院を受診しCT検査でSMV血栓症が疑われ、以前より両下肢静脈血栓症を診療してきた当院の心臓血管外科に紹介された。同日、緊急入院後ヘパリン持続投与を開始したが小腸壊死を発症し、空腸部分切除術を施行された。血液検査でプロテインS活性29 %、同抗原39 %といずれも低値を認めプロテインS欠乏症Type 1と診断された。
CT検査でSMV血栓の状態を評価しつつ抗凝固療法を継続したが、腸管虚血、小腸イレウス状態が続き第30病日に吻合部小腸壊死、膿瘍形成に対し小腸部分切除、膿瘍ドレナージ、SMVカテーテル留置、胃瘻および腸瘻増設術が実施された。抗凝固療法については全身投与に追加しSMVカテーテルからのヘパリン投与を実施し、その後ワルファリンヘ移行した。第35病日より経腸栄養を開始、第54病日より経口摂取が可能となり第70病日に軽快退院となった。
症例2　70歳、男性。161 cm、60 Kg。
9年前に腹膜炎とイレウスのため入院し保存的治療により軽快した既往がある。50日ほど前に39℃の発熱と腹痛があり10日程度で解熱はしたが腹痛は継続していた。第1病日に38℃の再発熱により当院を受診した。血尿もありCT検査を実施したところSMV血栓症とSMV末梢周囲の脂肪織濃度上昇と上行結腸憩室を認めた。アンチトロンビン3定量68％と軽度定値を認めたが、プロテインCとプロテインSの活性、抗原値は正常であった。腸管感染症から続発したSMV血栓症の診断で、ヘパリン投与と抗菌薬治療を開始し第5病日からワルファリン投与を開始した。順調に経過し、第5病日より食事が再開され第10病日に軽快退院した。2か月後のCT検査ではSMV血栓は縮小していた。
【結論】異なる原因によると推定されたSMV血栓症の2症例を経験したが、臨床経過が大きく異なった。