[P30-2] IgA欠損症患者の胸部大動脈手術時における周術期輸血経験
【背景】IgA欠損症は原発性免疫不全症の中で最も多く、日本では12500人に1人と言われている。抗IgA抗体をもつIgA欠損症患者の場合、通常の輸血製剤ではアナフィラキシーショックを起こすため、IgAを含まない製剤が必要である。本邦でIgA欠損症患者の輸血報告は複数あるが、胸部大動脈手術症例の報告は少ない。この度胸部大動脈手術を受けたIgA欠損症患者に対する周術期輸血管理を経験したので報告する。【臨床経過】54歳男性、強い背部痛を主訴に救急搬送され、造影CTで急性大動脈解離Stanford Aと診断された。手術適応であったが、解離の進展による右内頸動脈の狭窄があり待機手術の方針となった。待機中に患者から約15年前に輸血歴があり、その際注意を受けたと申告があった。調べたところIgA欠損症の疑いがあり、検査上もIgA 0 mg/dlという結果がでたため、IgA欠損症と診断した。術式は人工心肺を使用する大動脈上行置換術とYacoub手術であり、比較的大量の輸血が必要になると予想され、周術期輸血対策を講じた。洗浄赤血球液(洗浄RBC)20単位、洗浄血小板(洗浄PC)20単位、IgA欠損症ドナー由来の新鮮凍結血漿(FFP)14単位(同型6単位、異型8単位)を術前に準備できた。また、当院にはIgA欠損症患者の輸血経験者がおらず、血液センター担当者を含む本症例の関係者で会議を開き、知識や対応を共有した。上記輸血量で不足する場合、洗浄RBCや洗浄PCは通常より早めの追加申込が必要であり、術中定期的に血液センターに状況報告をした。FFPは上記で全てであり、事前に本患者の抗IgA抗体陰性を確認済みであったため、緊急時は通常FFPを投与する方針とした。幸い本症例ではIgA含有血液製剤を投与せずに済んでいる。【結論】準備輸血量は過去の投与量と比較して、術中分は適切であったが、術式をふまえると不足する可能性も十分あった。関係者全員で会議を開き、術中も各部署と密に連絡を取り合うことで、共通認識のもと順調に輸血準備や投与ができた。緊急準備が困難であるFFPは、抗IgA抗体の有無が通常FFP使用の可否を決めるため、必ず事前に確認しておく必要がある。今後のため患者には輸血関連情報カードの携帯を指示した。事前にIgA欠損症と判明した患者に各部署との連携を行い、適切な周術期輸血管理を行うことができた。