[P31-1] 肺癌化学療法中に発症した急性心筋梗塞の一例
【緒言】悪性腫瘍の存在は、血栓傾向の原因の一つと考えられている。今回、肺癌化学療法中に左主冠動脈血栓閉塞による急性心筋梗塞、左室自由壁破裂を発症した症例を経験したので報告する。【症例】66歳女性。脳転移を伴う肺腺癌に対してγナイフ治療施行後、化学療法を開始していた。サードラインの化学療法目的に入院となっていたが、心窩部の不快感や嘔気の訴えが強く、経口摂取不良が続くため補液療法を開始し経過観察となっていた。入院8日目、突然の胸痛を訴え心電図でST上昇を認めたため冠動脈造影検査を実施したところ、左冠動脈主幹部の完全閉塞を認めた。血栓吸引除去術で完全な血行再建が得られ、ICU入室となった。入室当初の循環動態は比較的安定していたが、その後左室自由壁破裂による心タンポナーデとなり開胸止血術を行った。術後の経過は良好で第12病日にICU退室となった。【考察】悪性腫瘍患者における血栓塞栓症の発症率は健常人の約4~7倍と言われており、特に静脈血栓塞栓症(VTE)の頻度が多いとされているが、動脈血栓塞栓症(ATE)の発症も頻度は少ないものの報告されている。肺癌、胃癌、膵臓癌の順に多く、ステージが進むにつれてその発症率が上昇する。また、化学療法による血管内皮細胞の障害もATE発症の原因になりうると考えられている。加えて、今回の症例でみられた長引く消化器症状は心筋虚血の一症状であった可能性も否定できない。【まとめ】担癌患者、あるいは化学療法中の患者が胸部症状を訴えた場合は冠動脈疾患の可能性もあり早期の対応が必要である。