[P36-4] 胸部ステントグラフト留置後の対麻痺に対して、右腋窩-左腋窩動脈バイパスを施行した1例
はじめに:胸部ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair;TEVAR)は開胸術に代わる低侵襲手術として広く普及している。TEVARは従来の人工血管置換術と比較して人工心肺や大動脈遮断に伴う血行動態変化や大量出血を回避でき、対麻痺の発生頻度が低い傾向にあるが、脊髄虚血のリスクは依然としてある。今回、緊急TEVAR後の対麻痺に対して右腋窩-左腋窩動脈バイパスを施行し脊髄虚血を施行し症状の改善が見られた症例を経験した。
症例:82歳男性。77歳時に左腎盂癌に対して左腎尿管全摘を施行、軽度腎機能低下あり(血清Creが2前後で推移)。1か月前より胸背部痛を自覚、徐々に増悪し歩行困難となったため当院救急搬送。CTで遠位弓部に60mm大の嚢状瘤ならびに、Th8レベルの下行大動脈に36mm大の潰瘍状突出を認めた。搬送後も著明な痛みが持続し、突出部位の穿孔が疑われたため緊急TEVARの方針とした。遠位弓部の嚢状瘤についても同時治療の方針とし、中枢側のランディングを左総頚動脈分岐直後、末梢側をTh9レベル(穿孔部位の2cm末梢)としてステントグラフトを留置(全身麻酔下、手術時間:84分 麻酔時間:152分、造影剤:44ml)。抜管後右下肢の脱力出現(徒手筋力検査(MMT) 左5 右2)。集中治療室に収容後凝固能異常がないことを確認し脳脊髄ドレナージ(CSFD)施行し、平均動脈を80mmHg以上に維持。施行後右下肢のMMTも4以上まで改善し増悪の兆候を認めなかったため手術4病日、CSFDクランプしたところ右MMTが2まで低下。脊髄への血流増加目的に、手術5病日、全身麻酔下に人工血管を使用して右腋窩-左腋窩動脈バイパス施行(手術時間:127分 麻酔時間:201分)。術後運動障害改善は改善し(MMT 右4)、バイパス術2日後CSFDチューブを抜去し以後リハビリを継続した。
まとめ:本症例での対麻痺発症の原因は左鎖骨下動脈閉鎖により側副路からの脊髄への血流が減少したため脊髄虚血が生じたものと考えられる。緊急症例であり、術前にAdamkiewicz動脈を同定できていなかったことも対麻痺発症の要因の一つである。中枢側の十分なランディングゾーン確保のために左鎖骨下動脈を閉鎖する際には、末梢側のステントグラフトランディングゾーンも考慮しながら同動脈の血行再建に関してさらなる検討が必要であると考えられた。
症例:82歳男性。77歳時に左腎盂癌に対して左腎尿管全摘を施行、軽度腎機能低下あり(血清Creが2前後で推移)。1か月前より胸背部痛を自覚、徐々に増悪し歩行困難となったため当院救急搬送。CTで遠位弓部に60mm大の嚢状瘤ならびに、Th8レベルの下行大動脈に36mm大の潰瘍状突出を認めた。搬送後も著明な痛みが持続し、突出部位の穿孔が疑われたため緊急TEVARの方針とした。遠位弓部の嚢状瘤についても同時治療の方針とし、中枢側のランディングを左総頚動脈分岐直後、末梢側をTh9レベル(穿孔部位の2cm末梢)としてステントグラフトを留置(全身麻酔下、手術時間:84分 麻酔時間:152分、造影剤:44ml)。抜管後右下肢の脱力出現(徒手筋力検査(MMT) 左5 右2)。集中治療室に収容後凝固能異常がないことを確認し脳脊髄ドレナージ(CSFD)施行し、平均動脈を80mmHg以上に維持。施行後右下肢のMMTも4以上まで改善し増悪の兆候を認めなかったため手術4病日、CSFDクランプしたところ右MMTが2まで低下。脊髄への血流増加目的に、手術5病日、全身麻酔下に人工血管を使用して右腋窩-左腋窩動脈バイパス施行(手術時間:127分 麻酔時間:201分)。術後運動障害改善は改善し(MMT 右4)、バイパス術2日後CSFDチューブを抜去し以後リハビリを継続した。
まとめ:本症例での対麻痺発症の原因は左鎖骨下動脈閉鎖により側副路からの脊髄への血流が減少したため脊髄虚血が生じたものと考えられる。緊急症例であり、術前にAdamkiewicz動脈を同定できていなかったことも対麻痺発症の要因の一つである。中枢側の十分なランディングゾーン確保のために左鎖骨下動脈を閉鎖する際には、末梢側のステントグラフトランディングゾーンも考慮しながら同動脈の血行再建に関してさらなる検討が必要であると考えられた。