[P37-3] 外科的大動脈弁置換術後に右冠動脈閉塞に伴う循環虚脱を呈し、救命に再開胸手術を要した1症例
【背景】外科的大動脈弁置換術(Surgical aortic valve replacement: SAVR)の合併症として冠動脈閉塞は稀であるが、致死的なものとして知られている。原因として冠動脈スパズム、プラーク塞栓、術操作や浮腫状変化などによる直接的閉塞などが考えられており、術後1-6か月の時期に発症しやすい。今回我々はSAVR後の集中治療室において、右冠動脈閉塞による循環虚脱を呈し、救命に再開胸手術を要した症例を経験したので報告する。【症例】66歳女性。他院にて先天性二尖弁を伴う重症大動脈弁狭窄症と診断され、手術目的に当院を紹介受診した。術前検査では冠動脈に有意狭窄を認めなかった。SAVRが施行され、自己心拍再開後の循環動態に問題なく人工心肺を離脱し手術を終了した。【術後経過】ICU帰室1時間後より体血圧低下と肺動脈圧上昇を認めたため、輸液負荷とカテコラミン増量を行ったが改善せずショック状態となった。循環虚脱の原因検索として経食道心エコー検査を行ったところ、右室拡大を伴う右冠動脈領域の心筋壁運動の著明な低下を認めたため大動脈バルーンパンピングを挿入。続いて冠動脈CTを撮影したところ、右冠動脈起始部の完全閉塞を認めたため緊急再開胸手術となった。人工心肺確立、心停止後に上行大動脈を切開し大動脈弁を観察。生体弁のステントストラット近傍から右冠動脈入口部にかけ一塊となった血栓を確認した。血栓摘出後に再置換術を行い、上行大動脈を閉鎖。その後の心筋壁運動は改善し人工心肺を離脱した。術後の循環動態も安定しており、術後26日目に独歩退院した。【結語】SAVR後の冠動脈閉塞は稀な合併症であるが致死的であり、救命には発症早期の診断と対処が必要である。SAVRの周術期管理において原因不明の循環虚脱が生じた際には、経食道心エコー検査や冠動脈造影などを考慮し冠動脈評価を行うことが肝要である。