[P40-1] 多発性骨髄腫に合併し、治療に難渋した胃腸炎による大量水様便の一症例
病態に対する有効な根治治療がなく、集中治療室での治療が長引く症例は我々の施設でも年間数例程度経験するが、症例ごとに治療継続または中止の判断を迫られることになる。終末期治療についてのガイドラインは存在するものの、ご家族の同意が得られない等の理由があれば個別対応となることは避けられない。医学的見地からのみではなく、人道的見地からも治療中止を決断しかねることもある。今回我々は、多発性骨髄腫の初回治療後に重症腸炎を合併し、有効な治療法がなく経過した症例を経験したので、問題提起症例として報告する。 症例は67歳男性。多発性骨髄腫(IgG-λ)に対する初回治療開始14日目に下痢症状が出現。その後急性循環不全、急性腎不全に陥り集中治療室に入室した。持続的血液濾過透析法(CHDF)を導入し、カテコラミンによる循環管理を行ったものの、水様下痢のコントロールに難渋。上下部消化管からの排液は連日5 Lにも及び、血行動態は不安定なままで推移した。 当初便培養、T-SPOT、CMV、CDは陰性であったが、その後の再検でCMVアンチゲネミア陽性であったため治療介入。アンチゲネミアは陰転化したものの下痢は続き、CMV腸炎に関してはステロイド投与後に二次性に合併したものであり水様便の基礎となる疾患ではないと考えられた。 原疾患である多発性骨髄腫の胃腸炎との関連性については不明ではあるが、初回治療にて骨髄所見は改善しており、また内視鏡所見や病理所見で一致を見ないため否定的であった。その他免疫学的機序、内分泌的機序、リンパ漏出によるものなども鑑別に上がったものの、いずれも典型的ではなく、胃腸炎の原因は不明のまま経過。難治性、治療抵抗性であり、いくつかの追加治療でも効果は得られることはなく、ICU滞在72日目に永眠された。