[P41-3] 腹壁瘢痕ヘルニア術後に腹部コンパートメント症候群を発症した高度肥満・ファロー四徴症術後患者の治療経験
緒言:腹部コンパートメント症候群(ACS)は腹腔内圧上昇が遷延し臓器障害を生じた状態と定義される。巨大腹壁瘢痕ヘルニア修復後の肥満患者においてACSを疑う膀胱内圧の上昇と乏尿を認め、循環管理を行うことで状態の改善を得た例を経験したので報告する。症例:50代女性。身長158cm、体重108kg。10歳時にファロー四徴症の根治術を行い、発作性不整脈や心不全のため当院心臓内科で外来通院していた。今回、腹腔鏡手術後の再発性腹壁瘢痕ヘルニアに対しヘルニア修復術、および約2000gの右卵巣のう腫に対し摘出術、小腸部分切除術を行い、抜管後ICUに入室した。術後1日目に血清クレアチニン値の上昇と尿量低下を認めたが全身状態は安定しており、利尿薬の内服を再開し一般病棟へ転棟した。その後も尿量が得られず呼吸状態が悪化し、うっ血性心不全の診断で同日ICUへ再入室した。NPPVを開始しフロセミド、hANPを投与するも尿量増加なく、水腎症や心拍出量低下も否定的であったため、ACSを疑い膀胱内圧を測定したところ26mmHgと上昇を認めた。ノルアドレナリンで昇圧を開始し腹部灌流圧を維持したところ、術後2日目の朝より尿量が増加し、呼吸状態は徐々に改善した。術後4日目には膀胱内圧が3mmHgまで低下し、術後5日目にノルアドレナリンを終了し、術後6日目に一般病棟へ転棟した。考察:本症例は、肥満と巨大腹壁瘢痕ヘルニアの修復により腹壁コンプライアンスが低下していた。またファロー四徴症術後で肺動脈弁狭窄症残存のため右心不全から臓器うっ血を生じやすく、さらに術中腸管損傷し腸管切除が行われており、術後の腸管浮腫が重度で腹腔内圧上昇に寄与したと考えられる。こういったACSのリスクを総合的に考慮し、術後腎不全に対して積極的にACSを疑い早期に対応したことで、うっ血性心不全を回避できた可能性がある。巨大ヘルニア術後のACS予防に関して、過去には術前の減量や下剤などで腹腔内容を減少させた報告や、術後に腹壁緊張の低下を図り人工呼吸管理を継続した報告がある。本症例は手術前に減量を行うことがより重要であった可能性がある。また、術後は腹壁緊張低下のため積極的に鎮痛し、利尿により腸管浮腫を軽減させたことがACSの軽快につながったと考える。結語:腹壁瘢痕ヘルニアの術後にACSを発症した症例を経験した。リスクを複合的に有する患者では慎重な循環管理と早期のACS発見が重要である。