第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(ポスター発表)

中毒

[P62] 一般演題・ポスター62
中毒02

Sat. Mar 2, 2019 11:00 AM - 11:40 AM ポスター会場21 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:藤塚 健次(前橋赤十字病院 高度救命救急センター 集中治療科救急科)

[P62-2] 診断に難渋しADH阻害療法のみを施行し救命しえた致死的メタノール中毒の1症例

田中 清高1, 川向 洋介1, 佐藤 智洋1, 山本 修司1, 山蔭 道明2 (1.JA北海道厚生連 帯広厚生病院 麻酔科, 2.札幌医科大学 麻酔科学講座)

【背景】メタノールは塗料の溶媒やラジエータの不凍液、燃料用アルコールなど身近に存在するため急性中毒の原因物質として重要である。メタノールは代謝によりギ酸となり、これが代謝性アシドーシスや消化器症状、神経症状、視力障害を引き起こし、ときに致死的となる。治療法は透析による原因物質の除去や、古典的にはアルコール投与によるアルコール脱水素酵素(ADH)の飽和、近年ではホメピゾールによるADHの阻害療法がある。しかし、現病歴がはっきりしない場合においては診断に難渋し治療開始を躊躇してしまうことがある。【臨床経過】49歳男性、既往に高血圧、糖尿病、うつ病、てんかんがあった。11月5日の夕方、降圧薬と抗てんかん薬を合わせて約30錠内服。翌6日の朝に自殺目的に燃料用アルコールを約100ml飲み外出、同日21時過ぎに酩酊状態で帰宅した。母親が救急要請し22時30分に前医へ救急搬送、急性メタノール中毒疑いで当院へ転院搬送となった。当院来院時意識障害はJCS 1、バイタルは安定、飲んだ物の容器はなく本人の証言もあいまいで、血液ガス分析で代謝性アシドーシスも認めなかった。さらに過去2回、同様の意識障害で救急搬送され、てんかん・心因反応の診断で精神科に入院歴があった。以上から即座にメタノール中毒と診断をすることができず、ひとまず経過観察目的で入院となった。翌朝になっても意識状態を含めバイタルに異常なく、積極的にメタノール中毒を肯定する証拠はなかったが念のためエタノールによるADH阻害療法を開始した。治療中にアセトアルデヒドによると思われる低血圧、腎機能障害がみられたが治療終了後から改善傾向となり、第7病日に精神科に転科転棟となった。第9病日に、入院翌朝に採取した尿検体より586.2 mg/dL(基準値5.0mg/dL以下)のメタノールが検出されたとの報告が届き、その時点で致死的なメタノール中毒であったと推察された。その後も特に問題なく経過し、環境整備の後、第49病日に軽度腎機能障害のみを残し自宅退院となった。【結論】致死的と思われる大量内服にしてはアシドーシスが軽度で他覚所見に乏しく、病歴から積極的にメタノール中毒を疑えなかった症例を経験したが、幸いなことにエタノールによるADH阻害療法のみで回復した。急性メタノール中毒は時に診断が困難で、また服用量と臨床症状が乖離することがあるので治療介入の判断に難渋することがあり注意が必要である。