第46回日本集中治療医学会学術集会

Presentation information

一般演題(ポスター発表)

感染・敗血症 症例

[P8] 一般演題・ポスター8
感染・敗血症 症例02

Fri. Mar 1, 2019 11:00 AM - 11:50 AM ポスター会場8 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:安宅 一晃(奈良県総合医療センター 集中治療部)

[P8-2] TAZ/PIPCによる急性腎障害の改善指標として尿中NGALを用いることで腎代替療法を回避し得た1例

川合 喬之, 小尾口 邦彦, 福井 道彦, 千葉 玲哉, 藤野 光洋, 大手 裕之, 福田 将哲, 松本 悠吾 (市立大津市民病院 救急診療科 集中治療部)

【背景】尿中NGAL(U-NGAL)は急性腎障害(acute kidney injury: AKI)の早期診断バイオマーカーとして注目されているが、病態変化もBUNやCREより早期に反映するとされる。
【臨床経過】84歳、男性。既往症として肝門部胆管狭窄があり急性胆管炎・敗血症を繰り返しておりERBD(endoscopic retrograde biliary drainage: 内視鏡的逆行性胆道ドレナージ)チューブが長期留置されていた。発熱を主訴に受診し、胆管炎再燃を疑われTAZ/PIPCによる入院加療が開始された。全身状態の改善に乏しく第5病日にERBDチューブ交換後、ICU入室となり、第6病日、意識レベルが低下した。同日より肝胆道系酵素は減少傾向に転じ、第7病日には意識レベルも改善した。集中治療管理により全身状態や意識レベルは改善したが、BUN やCREは連日増加し、第10病日にBUN101mg/dL、CRE7.18 mg/dLに達した。TAZ/PIPCによる薬剤性腎障害を疑い中止した。中止後もBUN、CREは上昇し続けたが、U-NGALは第5、6、8病日>6000ng/dLであったのに対して、第11病日2913ng/dLと急減し尿量も増加した。BUN、CREの推移からは腎代替療法の是非が議論されたが、TAZ/PIPCの中止に伴いU-NGALが急速に回復し尿量も増加していることから腎代替療法を使用せず経過観察した。第11病日集中治療室を退室し、第54病日退院した。
【結論】本症例のAKIは急性胆管炎による全身状態悪化とTAZ/PIPCによる薬剤性腎障害の両要素により発症したと考えられる。TAZ/PIPC中止後もBUN、CREは上昇を続けたためそれらを指標とすれば腎代替療法の導入は避けられないケースであった。全身状態の改善、尿量の増加とともにU-NGALの急減があったことや、薬剤性腎障害の多くは原因薬剤中止こそが治療であることから経過観察したところ、腎代替療法を回避しえた。AKIの診断基準はCreや尿量により定められるが(KDIGO分類)、早期診断に問題があることや腎機能改善も遅れて反映するとされる。集中治療において腎代替療法導入の適否に悩むことは少なからずあるが、U-NGALを用いることにより従来指標より早く腎機能回復を把握し正確に判断できる可能性があることが示唆された。また、薬剤性腎障害の早期診断指標としてU-NGALを使用しうる可能性が示唆された。
感染症とTAZ/PIPCによるAKIに対して、全身状態が改善し原因薬剤中止後もBUNやCREの改善は遅れたが、U-NGALの急減を指標として腎代替療法を回避しえた。