[P9-1] バンコマイシンのトラフ値において極端な低値を示した一例
【背景】バンコマイシン(VCM)は血清中濃度が高くなると腎毒性、聴覚障害などの副作用が起こる可能性があるためトラフ値を測定しTherapeutic drug monitoring (TDM)に基づいた治療が推奨されている。今回、トラフ値が有効血中濃度域へと達せず、極端な低値を示した症例を経験したので報告する。【臨床経過】76歳女性。弓部大動脈瘤に対して上行弓部下行人工血管置換術行後、胃管より経腸栄養開始されていた。POD 20に嘔吐あり、その後呼吸状態悪化(FM4L:SpO2 94%)、意識レベル低下を認め誤嚥性肺炎疑いで集中治療部入室となった。入室後挿管管理となり入院中の肺炎疑いで血液培養、痰培養提出後、広域抗菌薬のVCM、メロペネムの投与開始となった。体重44kg、Scr 0.6 mg/dl、CCr 55.41でシミュレーションを行い初回1.5g(34mg/kg)、翌日1gを投与しトラフ値13.19μg/mlを予測していた。第3病日にはトラフ値8.31μg/ml、Scr 0.39mg/dl、Ccr 86.0でありVCM 1g/回、1日2回投与に増量となった。第3病日まで尿量1000ml/day程度であったためフロセミドが投与開始となり第4病日は3020ml、第5病日は1700mlの利尿があった。第6病日にトラフ値0.16μg/ml、Scr 0.27mg/dlでシミュレーションにより1日最大投与量4gを投与しても有効血中濃度域10-20μg/mlを保てないこと、各種培養よりMRSAが検出されていないこと、呼吸状態改善し抜管となったことからVCM投与は中止となった。【結論】VCMは腎排泄型の薬剤であるためCcrが高くなると排泄量が多くなり、血中濃度が上がらないことがある。VCMは治療域と中毒域が狭く、また腎排泄型であるため全身状態悪化、浮腫、尿量減少などによる腎機能悪化で容易に血中濃度が高くなり副作用が起こる可能性が高い薬剤である。そのため腎機能に応じた薬剤投与が推奨されている。高血中濃度への注意喚起が多いが、低血中濃度(トラフ値が10μg/ml未満)であるとバンコマイシン低度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)の特性を有する株を生産することが示唆されている。今回、VCMのトラフ値が有効血中濃度域へと達せず、極端な低値を示した症例を経験した。