[P91-1] 高齢者における準緊急大動脈弁置換術後のADL回復に電気刺激療法とチルトテーブルが有効であった1例
≪背景≫心臓血管外科術後は循環動態安定化や合併症予防と並行し心臓リハビリテーション(心リハ)を行うことが一般に推奨されている。しかし緊急手術例では、術前状態が不安定で周術期管理が複雑となることなどから心リハの進行やADL回復に問題が生じることがある。このために、緊急手術例では待機手術例とは異なった心リハメニューが必要ではないかと考えてきた。今回、心肺停止(CPA)後に準緊急的に大動脈弁置換術(AVR)を施行した高齢者に対し、通常の心リハに電気刺激療法(EMS)とチルトテーブル(Til-Tab)を併施した個別メニューで心リハを施行し、良好な結果を得たので報告する。≪臨床経過≫症例は84歳の男性。日常生活は自立。心不全精査で大動脈弁狭窄症を指摘され大動脈弁置換術(AVR)を予定された。自宅で入院待機していたところCPAとなり蘇生後にICU入室。人工呼吸管理下の心不全コントロールの後、入院6日目にAVRが施行された。術後3日目に気管チューブを抜去、術後8日目にICUから一般病棟に転棟した。ICU入室中は術前・術後ともに1日30分間のEMSを施行。術後3日目以降はギャッジアップ座位・ベッド端座位・ベッドサイド起立・車いす座位と、段階的離床を実施した。ICU退室後に歩行器歩行を開始したが、右上下肢の脱力、座位・立位時の右傾が見られた。頭部CTで脳イベントは否定された。そこで、右半身脱力と左右バランス障害に対して体性感覚の改善を目的に、術後10日目からTil-Tabを導入した。Til-Tabは臥位から開始しヘッドアップ70度まで行い、これを1日に10分間実施した。Til-Tab導入直後から平行棒歩行が可能となり、3日目で左右バランスは著明に改善し右上下肢の脱力も消失した。術後17日目に独歩可能となり18日目からはエルゴメール―タ―による有酸素運動を開始。術後25日目には階段昇降可能となり33日目に退院した。退院3週間後には自分で車を運転し外来リハビリへの参加が可能となった。≪結論≫Til-Tabは脊髄損傷例における起立性低血圧に用いられることが多い。今回、高齢者準緊急手術後の右半身脱力・左右バランス障害に対して体性感覚改善を目的にこれを試み、良好な結果を得た。1例のみの経験であり断定的なことは言えないが、通常リハビリでの回復遅延が見込まれる症例において、臨床的に有用なリハビリ手法の1つになり得ると思われた。