第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(ポスター発表)

外傷・熱傷

[P95] 一般演題・ポスター95
外傷・熱傷02

2019年3月3日(日) 11:00 〜 11:40 ポスター会場13 (国立京都国際会館1F イベントホール)

座長:朱 祐珍(京都大学大学院薬剤疫学分野)

[P95-1] 外傷性大動脈損傷加療中にVTEを発症し治療介入に難渋した一例

粕川 宗太郎, 齋藤 伸行, 本村 友一, 益子 一樹, 八木 貴典, 松本 尚 (日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター)

【背景】重症外傷の急性期・周術期においては、静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism ; VTE)予防の有用性と出血性合併症の危険性とのバランスを厳密に考慮しなければならないが、外傷患者におけるVTE予防の方策の有用性とリスクに関した質の高いエビデンスは存在しない現状がある。今回、外傷性大動脈損傷を認めたため、VTEの予防および治療介入と大動脈損傷の出血リスクの管理に難渋した症例を経験したため報告する。
【臨床経過】72歳女性。乗用車助手席に乗車中に事故で受傷した。来院時、A:開通、B:右前胸部に打撲痕・圧痛を認めた。呼吸音左右差なし、C:ショックなし、骨盤動揺なし、D:E4V5M6、麻痺なし、E:37.4℃。FAST陰性。胸部レントゲンにおいて縦隔拡大あり、血気胸なし。造影CTを施行し、大動脈解離および仙骨・左坐骨の骨折を認めた。骨盤骨折に対して緊急TAEを施行された。外傷性大動脈損傷2b(As)は、翌日のCTでは偽腔は縮小傾向であり、外膜の破綻を示唆する所見を認めなかったことから、急性期の外科的介入は行わない方針とした。骨盤骨折症例はVTE発症の高リスクではあるが、抗凝固療法に伴う出血リスクがVTE予防の有用性を上回ると考え、抗凝固療法は行わなかった。受傷後8日目、Dダイマー上昇のため造影CTを施行したところ、左外腸骨静脈の血栓および左肺動脈の血栓を認めVTEと診断し、ヘパリンナトリウム持続投与による加療を開始した。受傷後19日目、左総腸骨静脈から大腿静脈にかけて血栓の拡大を認めたため下大静脈フィルターを留置し、外傷性大動脈解離の増悪を考慮してヘパリンナトリウム持続投与を終了した。受傷後40日目、経過において大動脈損傷の増悪を認めなかったことから、ヘパリンナトリウム持続投与を再開、47日目のCTにおいて下行大動脈の解離腔の増大を認め、54日目ステント留置術を行った。術後よりエドキサバントシルの内服を開始し、62日目リハビリ転院となった。
【結論】多発外傷を伴う場合には、外傷性大動脈損傷の加療について手術適応およびリスクを評価した上で待機手術を選択する場合がある。今回、外傷性大動脈損傷を急性期に外科的介入を行わなかったためにVTEの予防が行えず、VTE発症後も治療に難渋した症例を経験した。来院後速やかに確実な止血処置を行い、本症例のようにVTEを発症した場合には、その時点で速やかに動脈修復を行うことがVTEに対する治療介入にも有用であったと考える。