第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

Pros & Cons

[PC1] Pros & Cons1
どちらに軍配?民事訴訟 私はこう鑑定する -比較的長期挿管患者における抜管においてどこまでの配慮が必要か?-

2019年3月1日(金) 16:40 〜 17:40 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:落合 亮一(東邦大学医療センター大森病院麻酔科)

[PC1-1] どちらに軍配?民事訴訟鑑定
Pros:比較的長期挿管患者における抜管には最大限の予防を常に行う

尾﨑 孝平 (神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾崎塾)

オンデマンド配信】

本例の挿管期間は5日で、人工呼吸器離脱プロトコルに照らしても長期であり、抜管プロトコルでは超高もしくは高リスク群として扱われる症例である。
確かに超高リスク群の患者であっても、急性喉頭浮腫によって死亡する症例は稀であることも事実である。
しかし、注意喚起をいくら繰り返してもこの種の医療事故は発生し続け、私の元には1~3年毎に上気道トラブルの鑑定依頼が1通は届く。すなわち抜管後の上気道トラブルによる死亡事故および重大な中枢神経後遺症は確実に発生している。
ハインリッヒの法則を適応するならば、重大事故には至らなかったものの不安全状態によって発生した軽微な事故、ここでは抜管後のストライダー(PES)などは相当数存在していることが推測され、これらが新たな事故の火種になっているという仮説を立てることができる。
一方で、これらの事故を予見することは困難である。PESでさえカフリークテストで確実にスクリーニングすることはできず、窒息に移行するか否かを占うことはさらに困難である。同様に抜管前ステロイド投与についても、有効性は示されていても上気道トラブル防止の確実な方法ではない。
さて、ドリンカーの生存曲線やカーラーの救命曲線では、呼吸停止から10~15分で人間は死亡し救命できなくなる。根拠は明確でないが、換気の無い状態で15分以上経過して心肺停止に陥らない症例は殆どない。つまり抜管後に急性喉頭浮腫から上気道閉塞へと発展する緊急事態では、合併症なく患者を救命するには、限られた時間内に換気を再開しなければならない。再挿管を試みて挿管できなかったり、閉塞の覚知が遅れたりすると、対応可能な時間を逸する。後遺症を遺さない時間限界は何分かなどを考える状況ではなく、実際には1秒でも早く換気を再開させることに注力せざるを得ない。このような恐ろしい状況を想定すると、カフリークテストの感度が少々低くても、副腎皮質ステロイドを使用する不利益が多少存在しても、リスク群では緊急事態を回避するためには可能な限りのリスク評価を実施し、そのうえで迅速な対応策も準備すべきである。たとえば、ファイバースコープによる肉眼的評価や抜管前100%酸素化も考慮すべきであると考える。
上記プロトコルWGでは、特にリスクを指摘できなかった患者群であっても、最終的には抜管してみないと上気道閉塞の危険性は不明であると考え、経皮的緊急気管切開を考慮にいれた準備を怠らないように勧告している。確実な評価がない以上、確実な気道確保手段を準備する必要があると考える。
急性喉頭浮腫による窒息であれば緊急気管切開によって数分以内に換気を再開でき、換気が再開できればトラブルを回避できることは明らかで、原告側もその蓋然性は十分に理解できる。したがって、患者側と医療契約を結ぶ医療者はその準備を怠るべきではない。