第46回日本集中治療医学会学術集会

Presentation information

Pros & Cons

[PC3] Pros & Cons3
感染症治療最前線2:VAP予防目的でカフ上吸引付き挿管チューブを使用するか否か?

Sat. Mar 2, 2019 2:40 PM - 3:20 PM 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:藤田 直久(京都府立医科大学附属病院感染対策部), 瀬尾 龍太郎(神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター)

[PC3-2] カフ上部吸引孔付き気管チューブを導入する前にやるべきことがたくさんある

伊藤 雄介 (兵庫県立こども病院 感染症科)

ARS(視聴者参加型アンケートシステム)使用】

『これを着るだけで効果抜群! 寝ているだけで痩せられる!!』
深夜のテレビCMがついつい気になり、ポチッとしてしまうあなた。
振り返ってみれば、部屋の隅には健康器具やダイエット道具が溢れてはいないだろうか。

カフ上吸引付き挿管チューブがVAPを減らすことは素直に認めよう。1990年代から出てきているいくつかのRCTはVAPの発生率を減らし、人工呼吸器管理期間を減少させることを示している。しかし、である。本当に無批判にこういったデバイスを導入していいのだろうか。

以下にルーチンに導入しない理由を述べる。
1.VAPの発生率は高くない
先進的な集中治療室において、VAPの発生率はもはやあまり高くない。本邦でのVAPの発生数は3.6件/1000呼吸器管理日数であり、呼吸器を使用しない患者も含む全入室患者あたりの発生数は0.12%である(環境感染学会報告)。つまり年間1000人入室するICUでもその発生は1件程度。重症度が高くても年間3件程度の発生にすぎないのである。この程度の発生数のものに対してプラクティスを変えるメリットはあるだろうか。

2.各研究でのVAP発生率は高い=研究の信頼性は低い
上記の発生率は海外のサーベイランスデータでも同様である。ところが、各研究のVAP発生率をよく見ると10-20件/1000呼吸器管理日数であることがほとんどである。これは研究の成果をより良くみせるためにアウトカムを増やしているのではないだろうか。単なる『有意差が出た!!』だけに踊らされてはいけない。

3.死亡率に寄与しない。
2016年に出されたメタアナライシスでは、VAPの発生率は減らすものの死亡率やICUの入室期間に差がでないことが示された。更に、より客観的で患者アウトカムに関係しているとされるVAEの発生率と比べた最近のRCTでは、カフ上吸引付き挿管チューブの有意性は示されなかった。ICU入室期間にも死亡率にも差がでないのであれば、別に使用しなくていいのではないだろうか。

4.いくつかのデメリットもある
・コスト
・過剰吸引による粘膜損傷 (スタッフはズルズル吸引できると気持ち良いが、やみつきになってやりすぎてしまう?)
・1サイズ内腔が小さくなり気道抵抗が増す


よって、今回の結論は以下の通りである。
A.既に感染対策が上手くいっていてVAPの発生率が低い医療機関では費用対効果から導入する意義に乏しい
B.VAP発生率が高い医療機関に関しては気管チューブだけの問題ではなく、別のアプローチで十分に改善する可能性がある。(このチューブを導入していなくてもAのようにVAP発生率が低いところはある。)

カフ上吸引付き挿管チューブを導入すれば確かにVAPは減るかもしれない。
ただ、あなたの施設でルーチンに無批判にこれを導入するメリットは本当に大きいだろうか。ポチッとする前に、もっとやるべきことはないかを今一度考えていただきたい。