第46回日本集中治療医学会学術集会

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Pros & Cons

[PC5] Pros & Cons5
敗血症性DICの診断に急性期DIC基準を用いるか?(vs ISTH DIC基準、日本血栓止血学会DIC基準)

Sat. Mar 2, 2019 4:10 PM - 4:50 PM 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:江口 豊(滋賀医科大学医学部救急集中治療医学講座)

[PC5-2] 敗血症性DICの診断に急性期DIC診断基準を用いない

小山 寛介, 方山 真朱, 藤内 研, 島 惇, 鯉沼 俊貴, 布宮 伸 (自治医科大学 麻酔科学・集中治療医学講座 集中治療医学部門)

ARS(視聴者参加型アンケートシステム)使用】

 敗血症性凝固障害(sepsis-induced coagulopathy, SIC)の診断とその病勢を評価することは決して難しくない.しかし,それには2つの条件が必要となる.1) SICの病態を反映するバイオマーカーを用いること,そして2) そのバイオマーカーの経時的変化を評価すること,である.さらに敗血症に伴う播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation, DIC)をSICの重症型と定義すると,敗血症性DICの診断にはSICのステージングを行う必要があり,感染に対する生体の防御反応との連続性を考慮すると,その閾値を決定することは容易ではない.
 また敗血症性DICの診断を考える上では,その診断基準が臓器機能不全を反映するのか,それとも病態を特異的に診断するのかを分けて評価することが重要であり,そこに敗血症性DICの診断基準作成の難しさがある.
 日本救急医学会(Japanese association for acute medicine, JAAM)の急性期DIC診断基準(JAAM基準)は,それまで主流であった旧厚生省(Japanese ministry of health and welfare, JMHW)のDIC診断基準(JMHW基準)による診断の遅れの改善を目的の1つとして作成された.JAAM基準は簡便に計算が可能であり,重症度や予後との関連も示されており,国内外に広く普及する優れた診断基準である.しかし,いくつかの問題点を指摘できる.
 まずJAAM基準は,DICの早期診断を目指すため,診断の感度を高くしている.自験例833名の敗血症患者の解析においても,JAAM基準は,JMHW基準,日本血栓止血学会(Japanese society on thrombosis and hemostasis, JSTH)基準,国際血栓止血学会(International society on thrombosis and hemostasis, ISTH)基準と比較して感度が非常に高いことが示された.ICU入室後7日間にいずれかのDIC診断基準を満たした630例のうち2つ以上の診断基準を満たした症例は426例であり,JAAM基準のみ満たした症例が202例と突出して高く,JSTH基準のみ満たした症例は2例,JMHW,ISTH基準のみ満たした症例はともに0例であった.しかしICU入室日をDay 1とし,診断基準を満たしたICU dayの中央値(四分位)を比較すると,JAAM: 1 (1-2),JMHW: 1 (1-3),JSTH: 1 (1-2),ISTH: 1 (1-2),P=0.12と有意差はなく,JAAM基準の感度の高さは早期診断につながってはいなかった.
 またJAAM基準で採用されたマーカーは血小板数,PT比,FDP(fibrin degradation product)である.これらのマーカーの異常は消費性凝固障害と血栓形成を示唆するだけであり,病態や機能障害を十分に表してなく,他疾患で生じる凝固異常との鑑別が困難である.SICの特徴は,DICの本態である凝固系の活性化に加えて,止血凝固を制御する役割をもつ血管内皮の傷害を合併することにある.本講演では,自験例での凝固系の亢進と血管内皮傷害を反映するバイオマーカーの解析から,JAAM基準の限界と問題点を提起する.