第46回日本集中治療医学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD1] パネルディスカッション1
医療事故と刑事民事訴訟

Fri. Mar 1, 2019 2:40 PM - 4:40 PM 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:大嶽 浩司(昭和大学医学部麻酔科学講座), 木内 淳子(滋慶医療科学大学院大学)

[PD1-1] 当事者の立場から「日航706便事故」

髙本 孝一 (元日本航空機長)

オンデマンド配信】

1. 日航706便事故の概要
1997年6月8日、香港から名古屋に向けて飛行中の日航706便(MD11型機)が、志摩半島上空を降下中に期待が大きく揺れ、乗客乗員13名が負傷し、客室乗務員1名が事故から20か月後に死亡したものです。
当時の航空事故調査委員会は、事故原因は機長の不適切な操縦であったと結論付けました。

2. 日航706事故調査とその後の刑事捜査・裁判
事故は客室乗務員の機内作業の実施方法などが要因として考えられたため、会社は事故直後から原因を機長の操縦ミスとする方向で事故調査委員会に働きかけていた形跡があります。
また、機体メーカーも、「MD11は不安定な機体」という評判を払拭するために人為ミス説を展開し、事故調査は日本航空と機体メーカーが主導する形で行われました。
事故調査委員会が公表した最終報告書は、メーカーから事故調査委員会に送られた報告書骨子を基にしたものでした。
これに対して当該機長とパイロットの組合は自首調査を行い、事故原因は自動操縦コンピューターが気流の急変に対応できずに一時的に誤作動をしたことと、機体の不安定な特性が関与したものと推定しました。
検察は事故調査報告書を唯一の証拠として機長を起訴しました。
1審は「予見性がなかった」として無罪としましたが、第2審では、「そもそも過失を問うべき行為がなかった」として無罪判決を出し確定しました。

3. 航空事故と医療事故の類似点
航空事故と医療事故には次のような共通点があり、医療事故のかなりの部分に航空事故と同様の考え方を適用できると考えられます。
● プロフェッショナルの作業中に発生
⇒ 環境が大きく影響
●  善意の行為の中で発生
⇒ 処罰で抑止できない
●  人間の行動特性が深く関与
⇒ ヒューマンファクタース
●  類似事例が多い
⇒ 情報集約と共有が有効
● 組織的対応で改善が可能
⇒ 安全管理システム

4. 事故の背景要因調査が安全のカギ
多くの事故は人または機材が意図されたとおりに働かなかった(エラー)の結果として生じますが、作業環境の中に人や機材にエラーを生じさせる要因(ハザード)が潜在し、それが顕在化したときにエラーが発生するとされています。
したがって、事故を防ぐにはハザードがどのように作用したのかを調査し、防護壁を強化することが必要です。
ハザードを見つけ出すためには、当事者や関係者から事故発生時の状況をできるだけ詳細に聞くことが重要です。
事故の状況を最もよく知るのは、当事者に他ならないからです。

5. 責任追及はなぜ安全に有害か
当事者からより多くの情報を得るためには、当事者が忌憚なく話ができる環境が必要で、事故調査を処罰や責任追及と完全に切り話すことの重要性はここにあります。
国際民間航空機関は、「事故調査で得られた情報が懲戒・民事・行政・刑事上の手続きに利用されると、将来の事故調査において関係者は率直に情報提供をしにくくなり、安全に重大な悪影響を及ぼす(趣旨)」と説明しています。