第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD11] パネルディスカッション11
感染症におけるICU薬剤師の役割

2019年3月2日(土) 17:05 〜 18:05 第18会場 (グランドプリンスホテル京都B2F プリンスホール1)

座長:小林 敦子(宝塚市立病院感染対策室), 藤谷 茂樹(学校法人 聖マリアンナ医科大学救急医学)

[PD11-4] ICUにおける抗菌薬PK/PD理論

鈴木 義紀 (宮城県立がんセンター 薬剤部)

ライブ配信】

 ICUにおいて頻度が高く, かつ死亡率が高い病態として敗血症がある.敗血症患者における抗菌化学療法は, 血液検査結果のみならず, 病態の変化を捉えた抗菌化学療法を行うことが極めて重要になる.
 敗血症に陥る重症感染症患者では, サイトカインなどにより血管内皮が障害され, 血管透過性が亢進し, 血管外に水分やアルブミンなどのタンパク質が漏出する(capillary leakage).また, 循環血液量の低下(hypovolemia)も伴い, 敗血症性ショックに移行する.敗血症初期は, いわゆる腎前性腎不全の状態であるため, 血圧低下を認める場合などには晶質液の投与開始が推奨されている.しかし, 投与された輸液の血管内保持は困難であり, 血管外に漏出する.これは抗菌薬PK/PDを考える場合に, 水溶性薬物(β-ラクタム薬など)の分布容積の拡大をもたらし, 薬剤によっては約2倍程度に増大することがある.さらに, 前述のとおり見かけの腎クリアランスは急速に悪化するため, 薬物投与量を減量したくなる.しかし, 初回の抗菌薬投与量を減量した場合, 分布容積拡大の影響で血中濃度が十分に上昇しない.したがって, 敗血症患者では初回投与量を減量せずに投与開始することが重要である.
 次に抗菌薬の維持量は, 末期(腎性)腎不全の場合と敗血症に伴い見かけの腎機能が低下した患者で考え方が異なる.末期腎不全患者では, 透析条件に基づき維持量を調節する.一方, 敗血症に伴い見かけの腎機能が急激に悪化した患者では, 普段の患者の腎機能を考慮し投与量を決定する.しかし, 炎症性サイトカインなどの存在下では, 血中濃度が低下しやすい状態にあるため, 十分量で投与することに留意する.
 抗菌薬による治療が奏功した場合, 血管内皮構造の修復により血管外に漏出した水分やアルブミンが急速に血管内に戻ってくる(refilling).refilling期では, 腎血流量が著増し, 尿量が急激に増加する.すなわち, refillingに伴い薬物の腎クリアランスが増大するため, 抗菌薬の血中濃度が低下する可能性がある.refilling期は, 尿量が増加し始めたタイミングで採血結果も含め腎クリアランスの回復過程を推定し, 抗菌薬を増量する.
 持続腎代替療法を施行している患者では, 海外の感染症治療ガイドに記載された投与量を適応できない.本邦で主流の持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration: CHDF)の場合は, 本邦で承認された条件下でのクリアランス(CLCHDF)は13 - 15 mL/minであり, これに基づき投与量を決定する.ただし, 患者の残腎機能がある場合には, CLCHDFと患者の腎クリアランスを考慮し, 用法・用量を決定する.
 敗血症患者における抗菌化学療法のポイントは, 初回投与量は減量せずに開始し, refilling期までは十分量を維持し, refilling後の循環動態安定化後の腎クリアランスに合わせて投与量を調節することである.