[PD12-3] PICS対策とPost intensive careに向けた改善策 理学療法士の取り組み
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PICSはICU患者がICU在室中やICU退室後,さらには退院後に生じる運動機能,認知機能,精神の障害であり,患者家族の精神にも影響を及ぼすとされる.運動機能障害には呼吸機能や神経・筋機能の障害が背景にあると考えられている.持続する呼吸困難や身体可動性の低下により患者は著しい不安に陥る.しかし患者が経口挿管人工呼吸器管理下にあるような場合,不安の表出は不可能となり,身体可動性の低下がメンタルヘルスの障害をさらに悪化させる可能性がある.ここでは(1)PICS患者が有するせん妄状態と身体運動機能の関連,(2)理学療法士がPICSの対応策として実施し得る手段と介入効果について検討してゆきたい.(1)せん妄と身体運動機能の関連CABG症例を対象にICU入室中1日でもCAM-ICUが陽性であった症例(せん妄群: 12例)と,全日において陰性であった症例(対照群: 38例)について,ICU在室期間,在院日数,日常生活自立度(機能的自立度評価: FIM),術前の膝伸展筋力,握力,歩行速度および退院転帰について検討した.結果,ICU在室日数(せん妄群10.7±9.1 vs. 対照群5.9±4.7日),入院日数(60.9±41.8 vs. 32.8±15.4日)はせん妄群で有意に延長した.FIMは術前(120 vs. 125)は群間差を認めないがICU退室時(28 vs. 73),退院時(111 vs. 124)はせん妄群が有意に低値を示した.術前の運動機能指標は膝伸展筋力(18.2±4.4 vs. 29.6±9.2 kg),握力(15.2±4.8 vs. 28.1±9.3 kg),歩行速度(0.73±0.24 vs. 1.01±0.23 m/s)のすべてでせん妄群が低値を示す結果であった.自宅退院の割合に群間差は認めなかった.(2)理学療法士が実施し得るPICS対応策人工呼吸は気道内を陽圧に保ち機能的残気量を増大させることから患者は高肺気量位での換気を強いられる.呼吸補助筋の長さが-張力関係から,高肺気量位へのシフトは安静呼吸時の吸気補助筋活動に増大をもたらす.これは患者にさらなる呼吸困難を生じさせる.そこで我々は人工呼吸器患者5例に対して頚部の他動運動および斜角筋,僧帽筋上部線維のストレッチを実施し,その前後での呼吸数,一回換気量について検討した.結果,運動前後において呼吸数(30.2±2.4→28.6±2.4回/ 分)が有意に減少し、一回換気量(374.5±39.8→393.8±48.0ml)は有意に増加した.このことから,理学療法としては最も基本的とされる関節可動域練習においても患者の呼吸状態を至適状態へ改善させ得る可能性が示唆された.パネルディスカッションでは上記のような結果をもとに,理学療法士としてのPICSの捉え方と対応策について検討してゆきたいと考える.