[PD4-1] 外傷性凝固障害 -keynote presentation-
外傷による48時間以内の死亡原因の多くは重症頭部外傷と大量出血である。大量輸血を要する外傷患者の死亡率は50%を超え、さらにショックの遷延は急性期以降の敗血症や多臓器不全による死亡に大きな影響を与える。しかし、このような外傷患者では、主要な出血源を外科的に制御できないことにより失うことより、凝固障害を中心とする生理学的恒常性破綻のために救命しえないことが多い。そのため、凝固異常病態の把握と出血の制御は重症外傷診療における重要なテーマとなる。外傷に伴う凝固異常は輸液や輸血などにより生じる希釈性障害であるとされてきた。しかし、重症外傷では希釈によらない凝固異常を受傷早期より約25%に合併し、その死亡率は4倍であることが明らかにされた。FFP過少投与、希釈性障害出現以前より認められる凝固異常に関する報告がなされ、晶質液過剰投与制限による希釈性凝固障害を防ぐこととFFPを中心とした凝固因子補充を早期から積極的に補充することを中心とする“damage control resuscitation(DCR)”が、重症外傷の転帰を改善する可能性が示唆された。大量輸血を要する外傷患者は全ての外傷患者の3%に過ぎないものの、投与される輸血の70%がこれらの患者に対するものである。適切な輸血戦略にはmassive transfusion protocolが重要であり、事前に規定した比率での成分輸血を迅速に行うことを可能とし、大量出血を伴う患者に対して速やかに組織的対応を実践するものである。これにより、死亡率の減少と輸血量と輸血関連合併症、さらにはコストの低減が期待される。血漿や血小板輸血の供給・保存体制、フィブリノゲン製剤やクリオプレシピテート投与を含めた輸血戦略を考える必要がある。トラネキサム酸による抗線溶療法が、出血性ショックまたはそのリスクの高い患者の死亡率を低下させることが報告されたが、輸血量の減少によらずにその有効性が示される患者群を明らかにすることが求められ、また、病院前からの使用の有効性も期待される。明確な理論的背景とする新たなDCRの確立は重要な臨床課題であると考える。