第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] パネルディスカッション4
外傷性凝固障害へのアプローチ

2019年3月1日(金) 15:35 〜 17:35 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:石倉 宏恭(福岡大学医学部救命救急医学講座), 久志本 成樹(東北大学病院高度救命救急センター)

[PD4-6] 組織としての治療アプローチ:大量輸血プロトコル

齋藤 伸行 (日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター)

「外傷性凝固障害へどのように立ち向かうか」は重症外傷を受け入れる医療機関において、スタッフ間の共通理解が必要である。外傷性凝固障害への基本的な対処は、止血術とそれに並行した蘇生・輸血療法である。これを滞りなく達成し、患者を救命に導くには、組織としての連動が欠かせない。外傷の止血術については、off the job training courseにチーム単位で参加することが行われている一方、それに並行した蘇生・輸血療法については概念上の理解はあるものの、具体的なケア手順について議論の途上である。米国外傷学会のDamage control resuscitationに関するガイドラインでは、治療の中核として止血蘇生(hemostatic resuscitation)が掲げられており、事前に決められた輸血製剤比率による大量輸血プロトコル(MTP)は最も重要な要素である。現在、本邦では止血のための輸血製剤(クリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤)の使用に制限があるため、MTPの円滑な運用が止血蘇生の鍵となる。MTPには、病院前から始まる準備、輸血部門への連絡、輸血製剤の搬送・管理、プロトコル実施と止血、プロトコル中止、輸血後合併症への対処と後検査が含まれ、院内に多くの協力者が必要である。実際、MTPを最大限有効活用するためにはコメディカル(検査技師等)との連携が不可欠である。また、輸血部門と業務血液製剤供給プロセスについても確認しておく必要もある。さらにMTPを24時間運用するためには、夜間休日では検査と輸血は同一担当が行うことが多いため、人員の確保も考えねばならない。このようにMTPの導入ハザードは複数あり、2016年時点で本邦の救命救急センターのMTP整備率は38%にとどまっている。MTPが危機的出血への対応により大量出血例に対処はできる。しかし、蘇生の質にばらつきが生じ、医療安全上の問題が懸念される。大量輸血の実施頻度が少ない施設であればあるほど、事前の取り決めたMTPが有効であろう。米国外傷学会では、外傷センターではMTPを院内で定め、質指標をモニタリングし、院内訓練を実施することを提案している。本邦でMTPが外傷性凝固障害の治療戦略として普及するには、MTPが「組織として対応する治療アプローチ」であるとの認識を共有していかねばならない。