[PD6-2] 小児における急速輸液の速度は本当に安全か?
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小児のショックに対する急速輸液は、AHA-PALSガイドラインなどに従い「20 mL/kgを5~10分かけて」投与されるのが一般的であるが、果たしてこの投与速度は本当に安全と言えるのであろうか?
小児の急速輸液に関するエビデンスの多くは、敗血症を対象とした研究や報告に基づく。Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012や日本版敗血症診療ガイドライン2016では、「20 mL/kgを5~10分で」投与することが推奨されている。この投与速度は、2002年以降にACCM-PALSガイドラインが示した診療アルゴリズムを根拠としている。しかし、アルゴリズムの包括的な有効性を示す報告は散見されるものの、急速輸液の速度に焦点を当てた研究は極めて少ない。2017年に発表されたSankarらによる報告は、現時点で唯一の小児における急速輸液の速度を検討したRCTである。小児の敗血症性ショックを対象に、急速輸液を15~20分以上かけて行った群と5~10分かけて行った群とが比較され、主要アウトカム(人工呼吸器装着と酸素化の悪化を指標にした複合アウトカム)の発生率は5~10分の群で有意に高かったが、死亡率に差はなかった。急速輸液の速度に再検討の余地があることを示唆した結果と言えるが、本邦の患者に外挿困難な患者背景がいくつかある点には注意が必要である。
また近年、過剰輸液の弊害として血管内皮細胞膜に存在するグリコカリックス層(EGL)の損傷が注目されている。EGLの損傷により血管透過性が亢進し、輸液効果の減弱や種々の臓器障害を来す可能性が示されている。ただし、これらは輸液の量を中心に論じられることが殆どであり、輸液速度との直接的な関連を示した報告は見当たらない。
さらに、心機能障害の有無と程度も重要である。心機能が悪い場合、急速輸液の量や速度が過大であれば期待する心拍出量の増加が得られないばかりか、逆に心拍出量の減少や、静脈うっ滞による臓器障害が起こりうる。成人における敗血症性ショックは末梢血管抵抗の低下を主体とするwarm shockが典型的であるが、小児においてはsepsis-induced cardiac dysfunctionと称される全身炎症に伴う心機能障害を主病態とするcold shockが少なくないため、とりわけ注意が必要である。
小児のショックの病態は幅広い。急速輸液の望ましい速度は個々の病態によって異なると考えるべきであり、すべての患者に「20 mL/kgを5~10分かけて」投与することが最良ではない。急速輸液の前後に適切な循環評価を行い、患者ごとに至適な投与速度を検討する必要がある。
小児の急速輸液に関するエビデンスの多くは、敗血症を対象とした研究や報告に基づく。Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2012や日本版敗血症診療ガイドライン2016では、「20 mL/kgを5~10分で」投与することが推奨されている。この投与速度は、2002年以降にACCM-PALSガイドラインが示した診療アルゴリズムを根拠としている。しかし、アルゴリズムの包括的な有効性を示す報告は散見されるものの、急速輸液の速度に焦点を当てた研究は極めて少ない。2017年に発表されたSankarらによる報告は、現時点で唯一の小児における急速輸液の速度を検討したRCTである。小児の敗血症性ショックを対象に、急速輸液を15~20分以上かけて行った群と5~10分かけて行った群とが比較され、主要アウトカム(人工呼吸器装着と酸素化の悪化を指標にした複合アウトカム)の発生率は5~10分の群で有意に高かったが、死亡率に差はなかった。急速輸液の速度に再検討の余地があることを示唆した結果と言えるが、本邦の患者に外挿困難な患者背景がいくつかある点には注意が必要である。
また近年、過剰輸液の弊害として血管内皮細胞膜に存在するグリコカリックス層(EGL)の損傷が注目されている。EGLの損傷により血管透過性が亢進し、輸液効果の減弱や種々の臓器障害を来す可能性が示されている。ただし、これらは輸液の量を中心に論じられることが殆どであり、輸液速度との直接的な関連を示した報告は見当たらない。
さらに、心機能障害の有無と程度も重要である。心機能が悪い場合、急速輸液の量や速度が過大であれば期待する心拍出量の増加が得られないばかりか、逆に心拍出量の減少や、静脈うっ滞による臓器障害が起こりうる。成人における敗血症性ショックは末梢血管抵抗の低下を主体とするwarm shockが典型的であるが、小児においてはsepsis-induced cardiac dysfunctionと称される全身炎症に伴う心機能障害を主病態とするcold shockが少なくないため、とりわけ注意が必要である。
小児のショックの病態は幅広い。急速輸液の望ましい速度は個々の病態によって異なると考えるべきであり、すべての患者に「20 mL/kgを5~10分かけて」投与することが最良ではない。急速輸液の前後に適切な循環評価を行い、患者ごとに至適な投与速度を検討する必要がある。