第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD6] パネルディスカッション6
重症小児の輸液について本音で語ろう

2019年3月2日(土) 10:20 〜 11:50 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:川崎 達也(静岡県立こども病院 小児集中治療科), 永渕 弘之(神奈川県立こども医療センター集中治療科)

[PD6-4] 維持輸液:重症小児患者でも“4-2-1 rule”は妥当か?

楠本 耕平, 黒澤 寛史, 長谷川 智巳, 青木 一憲, 制野 勇介, 長井 勇樹 (兵庫県立こども病院 小児集中治療科)

ARS(視聴者参加型アンケートシステム)使用】

 維持輸液とは1日に身体から失われる水分・電解質・エネルギーを補う輸液のことである。1957年に米国の小児科医HollidayとSegarは基礎代謝量と過去の入院患者のエネルギー消費量から「4-2-1 rule(*)」を導き出し、今もなお絶飲食の患者における維持輸液の基本として広く用いられている。1960年代に入ってHolliday-Segar法を参考に、日本ではいわゆる1~4号液といった維持輸液製剤が開発された。『 3号液を「4-2-1 rule」の投与量で24時間かけて投与』といえば小児科医でなくとも誰しも一度は目にしたことがあるだろう。 さて、急性期、慢性期含めた入院患者群の平均から導き出されたこの維持輸液という概念は、集中治療室でみる超急性期の重症患者全員に適応できるのだろうか?昨今、この維持輸液の方針は様々な点で見直されつつある。この10年間で3号液をはじめとした低張液輸液による医原性低Na血症が小児を中心に相次いで報告された。低Na血症の原因は低張液投与による希釈だけではなく、様々な重症急性期病態ではアルギニンバソプレシン(AVP)の分泌亢進が起こりやすいことにも起因している。 今回は維持輸液の量の問題について考えてみたい。集中治療に関わる医療者にとって目の前の患者が輸液量を必要としているのかどうかは非常に重要な命題であるが、その評価は一つの指標で行えるものではなく総合的な判断が要求される。こと小児においては成人と異なりボリュームステータスを評価するツールも限られている。さらにグリコカリックスの発見に伴い輸液への反応性は患者の置かれている病態によっても大きく異なることが理論的に実証されつつある。過剰輸液による害が認知されるにつれ、輸液をどれだけ入れるかだけでなく、どれだけ抑えられるか日々悩むばかりである。百人の患者がいれば百通りの輸液戦略が求められる時代に、重症小児患者の維持輸液は「4-2-1 rule」のままでいいのだろうか? 当院では重症小児患者の維持輸液に関して「4-2-1 rule」よりも少ない輸液量を基本とした戦略を採用している。例えば挿管して人工呼吸管理を鎮静下に行うような場合には不感蒸泄は少なくなると予想されるので、血管作動薬や鎮静鎮痛薬などの持続投与薬を含めて「4-2-1 rule」の50%となるように維持輸液を設定している。それでボリュームとして不足している場合は適正化できるようにボーラスなどで追加し過不足のない輸液量を探る。過去の知見とあわせて、自分たちの管理を振り返り、重症小児の維持輸液の量について考え直してみたい。(*)4-2-1rule:以下の計算式で維持輸液の投与速度を求める。0~10kgの体重に対して 4mL/kg/hr10~20kgの体重に対して 2mL/kg/hrを10kgを越えた1kgごとに>20kgの体重に対して  1mL/kg/hrを20kgを越えた1kgごとに(例 体重25kgの場合:10×4+(20-10)×2+(25-20)×1=65mL/kg/hr)