第46回日本集中治療医学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD8] パネルディスカッション8
敗血症の基礎研究 Bench to bedside

Sat. Mar 2, 2019 8:45 AM - 10:15 AM 第7会場 (国立京都国際会館1F Room E)

座長:井上 茂亮(神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野), 松田 直之(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)

[PD8-6] 敗血症性ショックにおけるコンピュータ制御循環管理システム開発の意義

上村 和紀, 川田 徹, 鄭 燦, 李 梅花, 杉町 勝 (国立循環器病研究センター循環動態制御部)

【背景】敗血症性ショックの循環蘇生は、厳重な血行動態モニターと輸液・心血管作動薬投与量調節が必須である。集中治療専門医・コメディカルのチームがこれにあたるが、重症患者管理ほど彼らの負担は大きい。またかならずしも専門医の治療に浴することができない場合もある(全国に約1100あるICUのうち、専門医がいるのはわずか300ほど。)。これらの事実は、ショック急性期における新規治療法の研究開発の足かせにもなってきたかも知れない。【目的】このような問題を克服するため、非専門医でも安定した敗血症性ショックの循環蘇生・血行動態維持を自動的に可能にする、コンピュータ制御循環管理システムを我々は開発してきた(BMC Anesthesiol 2017)。さらにこのシステムを用いて、敗血症性ショックの循環蘇生中、急性期のベータ遮断薬:ランジオロルの投与が、血行動態や心筋酸素代謝、また循環蘇生に要する薬剤量等へ及ぼす影響を検討した(Shock 2018 in press)。今回、これらの基礎開発を概説、その意義・展望について議論したい。【方法】我々のシステムは血圧(AP)・心拍出量(CO)・中心静脈圧をモニターし、血管抵抗(R)・有効循環血液量(V)・心機能を指標化する。ノルアドレナリン(NA)によりRを、リンゲル液(RiA)によりVを負帰還制御し、APとCOを自動的に改善する。麻酔下犬において大腸菌LPSを投与、ショック状態(AP<50mmHg, CO<70 ml/min/kg)を作り、システムを装着した。【結果】ショック犬(8頭)にて、システムは起動後NAとRiAを投与開始、1時間以内にAPは70 mmHg、COは130 ml/min/kgまで自動的に改善した。目標値からの誤差はAP・COとも6%以下と小さく、目標値を4時間にわたり安定して維持した(BMC Anesthesiol 2017)。またショック犬(13頭)においてシステムにより循環蘇生する際、6頭において低用量ランジオロル(<10 microg/kg/min)を投与した。循環蘇生中、ランジオロル投与は心拍数・心筋酸素消費量を有意に低下させたが、AP・COの改善やNA・RiAの投与量に影響せず、乳酸値は低下傾向を示した(Shock 2018 in press)。【結論】開発したシステムは、さらなる低侵襲化・安全性向上により臨床応用できれば、集中治療専門医・非専門医の負担を軽減、患者予後改善に貢献できるかもしれない。実地医療への貢献のみならず、敗血症性ショックの新規治療法の客観的評価が可能な、実験プラットフォームにもなりえると期待される。