[PL] For the next generation 次世代のために
私が1981年に医学部を卒業した時、所属する大学付属病院は多くの施設の後塵を拝し、いまだ集中治療室が存在しませんでした。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、そのおかげで私はその後に二つの集中治療室の設立に関与するという幸運に恵まれたとも言えます。ともかくも当時はその後の医師人生のほとんどの時間を集中治療室内で過ごすことになろうとは想像すらできませんでした。小児集中治療の黎明期である1980年代初期に国際児童年(1979年)に呼応して作られた京都府小児疾患研究施設の小児ICU開設のお手伝いを命じられました。 設立前に国立小児病院(当時)を上司と一緒に訪問し、三川宏先生と宮坂勝之先生のお二人から直接薫陶を受けたことが昨日のように思い出されます。今回宮坂先生には岩槻記念講演を、さらにその当時小児病院に在籍されていた、高田正雄先生、落合亮一先生に本学術集会を盛り上げていただくことになりそのご縁の深さを感じております。1988年には新しい成人対象のICUを設計してその後運営するように病院上層部より仰せつかりました。今から思えばよくこんな駆け出しに任せたなあ思うのですが、2年間にわたり全国の著名な先生方にアポなし電話攻勢をかけてアドバイスを御願いしたり、施設を直接訪問させていただいたりしました。皆様大変親切に指導してくださいました。特に当時の名古屋大学で先進的なICUを運営されていた故武澤純先生の「苦しい、大変だなと思うことがあったらあえてその方を選ぶ」という言葉は未だに心に残っております。そして1990年におそらく全国の大学病院で最後発となるICUを立ち上げました。その後ずっとこのちっぽけなICUで仲間と一緒に仕事を続けて参りましたが、「大きなことはできないけど小さなことからコツコツと」を信条に30年近くがあっという間に過ぎ去ったように感じられます。同じICUでずっと重症患者治療を行ってきたわけですが、その内容は確実に前向きに変遷しています。この間、内外の数多くの優秀な医師、看護師、医療スタッフの皆様とともに仕事ができたことは私にとって大きな財産となりました。ARDS診療ガイドライン作成、重症患者レジストリ(JIPAD)などの仕事を授かり、ここでも多くの優秀な集中治療分野の人材と知り合えることができるという幸運にも恵まれました。今回の学術集会も数多くの方々のご協力のおかげですばらしい内容のプログラムを構築することができたと思います。本講演では私が歩んできたICU人生をご紹介し、それが少しでも次世代の皆さんに伝わればと願う次第です。