第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

特別企画

[SP4] 特別企画4
集中治療における複合現実感技術の可能性

2019年3月2日(土) 14:55 〜 15:45 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:野村 岳志(東京女子医科大学集中治療科)

[SP4] 集中治療における複合現実感技術の可能性

大島 登志一 (立命館大学 映像学部)

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1991年筑波大学大学院工学研究科電子情報工学系博士課程修了(工学博士)
1991年キヤノン(株) 情報システム研究所研究員
1997年 (株)エム・アール・システム研究所(出向)主任研究員
2001年キヤノン(株) MRシステム開発センターMRシステム第一開発室室長
2006年立命館大学情報理工学部教授
2007年立命館大学映像学部教授, 現在に至る
専門分野は, 人間情報学・ヒューマンインタフェース(バーチャルリアリティ, 複合現実感)
現在, VR/MRの様々な教育や作業支援応用の研究や作品制作に従事
VR(Virtual Reality; バーチャルリアリティ)という概念が確立した1989年から、ほぼ半世紀となります。2016年には、一般消費者向けのVR製品の発表やアミューズメント施設のオープンなどが数多くあり、VRという言葉は、広く一般社会の認知を得ることとなりました。特にゴーグル型の表示装置、HMD(Head-Mounted Display; 頭部搭載型表示装置)が、一見してあやしく未来的で、衆目を惹くそのスタイルもあいまって、次世代の体験メディアとして注目を集めました。また、スマホなどで現実の風景にCGを重畳するAR(Augmented Reality; 拡張現実感)や、複合現実感(Mixed Reality; MR, ミクストリアリティ)も同様に広まってきました。MRとは、VR技術から派生した、現実世界をベースにバーチャルな情報を重畳提示する技術で、主観体験であることがARとの差異となっています。MRについては、Microsoftが製品を発売したことなどから実利用が進んできています。いまや私たちは、AR・MR・VRを道具としていつでも手に入れることができます。では、それらを実際の課題に適用するには、どうすればよいのでしょうか。
MRの研究においては、その初期段階から医療現場での利用が重要な応用領域の一つとして想定されてきました。様々な生体情報をビジュアルに示したり、体内を透過して患部の状態を分かりやすく提示したり、体内に挿入した医療器具を的確にナビゲーションしたりと、様々な活用が期待されています。眼前の術野にCGとエコーなど各種画像診断を併用する枠組みは、様々な医療場面のひな型になり得ると考えられます。
臨床応用の場面としては、手技訓練や手術計画、そしてリハーサルと、各段階での活用が考えられます。1990年代から研究事例のある超音波ガイド下穿刺の支援や訓練などが典型的な応用となりそうですが、その他にも様々な手術・検査への応用が期待されます。また、治療を直接的に支援する局面以外にも、周術期管理ツールとしてチームコミュニケーションを強化する可能性もあります。さらに、医療チームのためだけでなく、例えば術前のインフォームドコンセントや、術後のリハビリや回復期を快適に過ごせるためのリラクゼーションなど、患者やその家族も含めた展開もあるでしょう。集中治療の過程においては、MRやVRの特徴である、能動知覚に基づいた感覚モダリティと身体性の整合性により、あまり動くことのできない状況下の患者に対して、意識レベルを維持することにも利用できるかも知れません。
本講演では、MR―ミクストリアリティを中心に、技術の素性を明らかにしながら、医療の現場、特に集中治療に関わる実活用の可能性について、皆さんと共に考えたいと思います。